マンションの仕組み(第四十三歩)

■花鳥風月 / マンションの植栽効力

都心で緑が豊かな敷地を有するマンションを計画することは難しく、建設した場合は当然ですが土地の購入費用や管理費を含めてマンションの販売価格に影響します。敷地に多くの植栽をする余地がないマンションの場合は、周辺地域の自然環境を有効的に利活用することになります。

団地型マンションのように、ある程度敷地が広い場合は、そのマンションのために計画された植栽の豊かさがマンションの購入希望者を引き付けて、マンションを販売する上での大きなポイントになります。
郊外のファミリータイプのマンションを購入する方は、投資目的ではなく永住目的の方がほとんどです。
子供を育てながら家族で住むのがマンション購入の動機なので、家族が住みやすい環境にこだわります。教育施設や医療施設や商業施設などは当然ですが、それらと同様に自然環境やその関連施設も大事な選択肢になります。

それらの周辺地域の環境がすべて網羅されて紹介されているのが、マンションの販売パンフレットです。
植栽が多様に計画されているマンションの販売パンフレットには、高木や低木から地被植物まで植栽された、目に鮮やかで緑が豊かでキラッキラに輝く、ワクワクする希望の景色が描かれています。
販売パンフレットなので一番良い季節の樹木景観の絵になっていますが、実際の樹種等と大きく異なると入居後の区分所有者ともめる原因になるので、マンションの設計図書である外構図(植栽図)から植え位置と樹種を確認して、同等の樹高・枝張りで樹木を描きます。

新築マンションの内覧会は、学校の新学期が始まる関係で一般的に2月から3月に行われます。冬期は樹木が眠っているので新植(移植)をするには適した時期なのですが、その頃はまだ樹木に新葉が展開していないので、内覧会に来られた購入者から「パンフレットと違う」と言われることもあります。
時には購入住戸の前にある樹木の剪定を強く言われることもあるので、内覧会ではマンションそのものだけではなく、外構や植栽に関してもパンフレットと比較して事前に整合性を確認しておきます。
過去に、「何でそんな木を植えるのか」といったご意見をいただいたことがあります。その方は新築マンションの購入者ではなくて近隣の方でしたが、植栽に興味があり、見識のある方だったので、じっくり話をしてみると、深い話ができる楽しい植栽つながりの友人になりました。

実は、竣工前のマンションは入居前なので、とても暗く静かで、とても無機質で不気味な建築物なのです。
マンションの建設工事が基礎工事から躯体工事そして内外装工事へと進捗し、大きな設備機器などの搬入が終わって内装仕上げが進み、外装仕上げが終わって外部足場が解体されると、やっと外構工事(植栽工事)が始まります。
外構工事では公園や遊歩道や駐車場・外周の舗装などの前に植栽工事が始まります。するとまだ人が住んでいないにも関わらず、無機質で不気味な建築物の色が変わり始め、明るくなって、とても生き生きとした姿に変わっていきます。
多くの新築マンションが竣工する早春の時期は、落葉樹にはまだ葉がついていませんが樹皮には樹種特有の色や皮目・模様があります。移植で剪定されていますが常緑樹には葉がついています。低木の花木や地被植物は花が咲き始めています。植栽工事を進めていくとそれらの影響はさらに大きくなり、無機質なマンションはきれいに着飾って、入居する方たちを迎えます。植栽の力はとても大きいのです。

次回は、マンションにおける植栽の図面について説明します。

(一級造園施工管理技士/マンション管理士 福森 宏明)