マンションの仕組み(第四十五歩)

■花鳥風月 / マンションのガラス

今年も師走になり、大掃除の声が聞こえ始めていますので、ガラスとその注意事項の説明をします。
マンションでは、窓枠及び窓ガラスは専有部分に含まれず、専用使用権となります。共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行いますので、窓枠、窓ガラスなどの開口部に係る改良工事は区分所有者や住人は勝手にできません。

マンションでよく使用されるペアガラス(複層ガラス)とは、2枚のガラスの中に空気を入れて周囲を封着している断熱ガラスです。そのため熱が通りにくくなり、暑さや寒さをやわらげ、結露の発生をおさえます。
ペアガラスの片側に特殊な金属膜をコーティングしたLow-Eガラスは、より断熱効果が高いガラスです。
ガラス周囲の封着している有機材料が劣化すると、ガラス内部の空気層に結露やくもりが発生します。
2枚で加工されているので、ガラスの片側1枚が割れた場合は、割れた片側だけの交換はできません。
2枚のガラスの間を真空にした日本板硝子の「真空ガラス」(スペーシア)もあります。これはペアガラスより断熱性能が2倍で風圧強度も高いので値段も2倍近くなりますが、光熱費が大きく削減できます。

2000年から住宅性能評価が始まったので、その後の分譲マンションではペアガラスが使用されるようになりました。それ以前のマンションは1枚ガラスなのでサッシも薄く、断熱性能は低いです。断熱改修のために厚さのあるペアガラスを入れるためにはサッシを厚くする必要があり、サッシの交換工事が必要になります。
複層ガラスにはペアガラスだけでなくトリプルガラスなどもあり、空気層にガスを充填しているガラスもあります。
真空ガラスにも多くの種類があり、断熱サッシも同様に種類があるので、組み合わせは地域・用途・性能(断熱・防音・結露・防犯)・予算、そしてデザイン性などを考えて選ぶ必要があります。

マンションではエントランスなどに、強化ガラスや耐熱強化ガラスや倍強度ガラスが使われています。強くて硬いと思われがちですが、実は熱処理加工の影響により、表面にキズがつきやすいガラスです。クリーニング時はカッターや金属スクレーパーなどを使用しないようにしてください。
強化ガラスは、まれに自然破壊します。この原因は表面のキズの他に、元になる板ガラス製造工程でごくまれに内部に存在する不純物(硫化ニッケル)が体積増加してガラス内部に微細な傷が発生して自然破壊になります。日本製ならヒートソーク処理という過程を経て出荷されるので安全ですが、注文する際にはヒートソーク処理を確認してください。安価な外国製の強化ガラステーブルなどはちょっと心配です。

寒くなると、晴れた午前中に増えるのが、生活状況や使用環境に伴うガラスの「熱割れ」です。
ガラスに温度差が生じたり、ガラス面付近に熱がこもって高温になると、ガラスが割れる場合があります。これは「熱割れ」と呼ぶ現象で、日射や室内温度、ガラス面付近の環境的要因によって引き起こされるものであり、外から力が加わっていない、何もしていない状態でもガラスが割れる現象です。「熱割れ」を防ぐために、下図のような状況を作らないでください。網入りガラスや複層ガラスには「熱割れ」が起きやすいので注意してください。特にLow-Eの複層ガラスは熱割れのリスクが大きくなります。

「熱割れ」トラブル防止のため日射を受けるガラス面に局部的な温度差を与えないよう注意して下さい。
・衣類などの洗濯物を乾燥させるために密着させない。束ねたカーテンを密着させない。
・ガラスにロッカーやソファーなどの家具を密着させない。ポスターや紙などを貼らない。塗装しない。
・空調の温風や冷風、又は強い照明を局所的にガラスに当てない。
・すぐ外側に、エアコンの室外機を密着して設置しない。
建築工事中では、日射状況や熱がたまる構造や環境、フィルムを貼る場合は、熱割れ計算を行います。

次回は、マンションにおける土木工事について説明します。

(一級建築施工管理技士/マンション管理士 福森 宏明)