マンションの仕組み(第四十七歩)

■花鳥風月 / マンションの植栽準備(その1)

団地型マンションの様に敷地に余裕があるマンションでは、居住者のために多くの施設が存在します。

ゲストルーム(宿泊施設)や託児所やフィットネスジム、公園などは良く見られますが、私が建設してきたマンションでは、浴場やキッチンスタジアム(料理教室やパーティーなどで使用)やシアタールーム、売店、池などもあり、それぞれに外構の景色を変える必要があります。景観や日陰や目隠し、シンボルツリーなどの植栽が必要になるので、その場所にふさわしい植栽の種類と姿、多くの本数が必要になります。

まずはマンションの建設工事の工程を見て、植栽工事の工程を検討します。マンションの工事工程表では外構工事は外装工事が終わった後に、横のライン一本で外構・植栽と表現されるだけなので、詳細な外構・植栽工事の計画が必要になります。その際にポイントとなるのは付属施設や外構の擁壁などの構造物と高木です。なぜかというと、コンクリートを圧送するポンプ車や造園・土木工事用の重機、そして高木を植えるクレーン車の調整が必要になるからです。重量がある高木に関しては植える時期と位置と順番を考えて総合の外構工事の工程表を作成します。

団地型マンションのような大規模のマンションでは、植える樹木の種類も数も多いので、それに対応できる造園業者さんと契約を行い、細かな打ち合わせが始まります。
造園業者さんの規模にもよりますが、皆さん「はたけ」と呼ばれる樹木を育てている土地をもっていて、注文に応じて樹木を出荷できるようにしています。街中でも所々で、木がいっぱい植えられているだけの土地を見ることがありますが、それは地元の造園業者さんが管理している「はたけ」です。
大きな造園業者さんの「はたけ」は山です。山といっても、樹木の間には運び出せる間隔が保たれていて、同じ樹種がまとまって植えられていて、形や大きさで区別もされている、まさしく畑です。当然ですが樹木は商品なので育成状況や樹形や病害虫対策などはしっかり管理されています。

造園業者さんと打合せが進んだら、実際に「はたけ」に行って、マンションの敷地に植える樹木を見ます。基本的に選ぶ樹木は高木とシンボルツリー、そしてあまり見かけない樹木があれば候補に入れます。良い機会なので中木もできれば見ておきたいです。まれにですが、庭石や灯篭なども選ぶことがあります。
その際にとても重要なことは、外構(植栽)図面と外構工程表とマンションのパンフレットをみて、ある程度の樹形や列植などを考えて敷地に植える樹木を選ぶことです。敷地内道路に沿って植える高木は下枝が車の通行の邪魔にならないか、シンボルツリーは主幹がまっすぐで枝張りが均等で姿が美しいかを見ます。木には表と裏があり、木の姿・表情が変わります。植える場所を考えて、個人の感覚で良いので楽しく選ぶことが大切です。もちろん生育状況や全体のバランスは基本ですが、必要であれば鋏む枝を指定します。(造園業界では「切る」は忌み言葉なので、剪定の事を現場では「はさむ」「おろす」「とばす」などを使います)

地球温暖化が問題になっています。良く見聞きするのは、海で獲れる魚の種類が変わったことです。本来ならば南で回遊する魚が、北上してきたため今までは考えられないような魚が獲れ初めています。
実は植物の世界でも同じような動きは発生していました。葉が奇数羽状複葉で涼しげな感じがガーデニングでも人気の高木「シマトネリコ」ですが、2000年ごろに鹿児島県まで行って選んできた記憶があります。
その際に言われたことは「本来は常緑樹ですが、東京では冬に落葉するでしょう。でも強い木なので枯れてはいません」 でした。
植物も地球温暖化(気候変動)の影響で生育可能範囲を広げているのです。「シマトネリコ」は今では普通に都会のビル街で冬でも常緑樹で見られます。

次回は、マンションの植栽準備(その2)について説明します。

(一級造園施工管理技士/マンション管理士 福森 宏明)