マンションの仕組み(第四十八歩)

■花鳥風月 / マンションの植栽準備(その2)

団地型マンションの様に敷地に余裕があるマンションでは、居住者のために多くの施設が存在します。
景観や日陰や目隠し、シンボルツリーなどの植栽が必要になるので、その場所にふさわしい植栽の種類と姿、多くの本数が必要になります。

樹木を選んだらマンションの工事進捗に合わせて、高木やシンボルツリーの搬入日を決めていきます。これらの樹木は大きな成木で、かなりの重量があるのでクレーン車で吊上げて植え付けします。そのため能力のあるラフタークレーン(ラフテレーンクレーン)を選びます。ラフタークレーンは建設工事では普通に使われる自走式クレーンの一種で、走行とクレーン操作が1つの運転席で行えて、四輪駆動・四輪操舵(斜めに走行できます)システムを装備しているため、悪路や狭路でも走行・作業に対応できます。ラフタークレーンにはアウトリガーと言って格納された4本の伸びる足があり、その足を伸ばして踏ん張って重量物を吊上げますので、その範囲には鉄板を敷く必要があります。
工事の最初に土木工事で敷地内道路の下に配管をしておいて、鉄板を敷いて工事用道路として使用していたら地盤は固まっているので、アウトリガーの場所だけ鉄板を敷けば樹木の植え付けはできます。

時々、工事現場でクレーン車などの重機が転倒するニュースがありますが、その原因はアウトリガーを張り出していない、地盤が強固でない、鉄板を敷いていない、鉄板を敷いていてもその下の地盤が軟弱、などがほとんどです。樹木を吊上げるラフタークレーンは、小型の16tクラスでも走行時の全幅は2.2mですが、アウトリガーを完全張り出しすると5.2mになります。そして小型でも重量は約20tもあります。

当然ですが、入居後に作業をすることは困難を伴います。もし高木が枯れてしまい同じ大きさの高木を植えるとなると、枯れた樹木をチェーンソーで伐採し、バックホー(重機)で根を掘り起こし、土壌を入替え、高木を吊上げられる性能のクレーン車を配置するなど、大がかりで高額な工事となります。

大切に育てた商品である樹木には、移植後の1年間の枯補償が付いていることが普通です。樹木は生き物なので、移植にはリスクが伴います。樹種によっては同じ樹木でも幼木や成木で移植の難易度が変わります。難易度が高い樹木は、移植後に枯れないように事前に根回しをして細根を発根させたりします。樹木が寝ている厳冬期過ぎに移植ができれば安心なのですが、マンションの竣工時期に合わせて各種の大きさの樹木を新植(移植)する必要があるので、土壌条件なども調査して早めに準備をします。

移植先の状況も含めて総合的な判断が必要ですが、樹木の休眠期に移植を行うのが良いと一般的に言われる理由は、樹体内のエネルギーが高いために移植先で発根や新葉の展開に有利だからです。
樹木は春に目覚めると樹体内のエネルギーを使って芽吹き、光合成を始めます。春から夏に向けて活発になりますが、その時の光合成産物は根の成長と幹や枝などの肥大成長に使われるので樹体内のエネルギーはどんどん減って行きます。育ち盛りの時期は食べても食べても腹ペコなのです。真夏になると成長は止まりますが、太陽光が強くて気温も高いので光合成は盛んに行っています。その光合成産物をエネルギーとして樹体に蓄え始めます。そして冬になる前に寒さで凍らないように樹体の糖分濃度を高めて、春の準備をしてお腹いっぱいで冬の眠りにつくのです。

次回は、マンションに係る建設業法改正について説明します。

(一級造園施工管理技士/マンション管理士 福森 宏明)