マンションの終活/第1部~「二つの老い」「3つの劣化」「3つの不足」~

第1章 激増するストックマンション

1-1.社会を支える住居形態
戦後復興から高度経済成長期、そしていま少子高齢化社会と変遷する日本社会。その移り行く社会の中で、マンションという住居形態は、社会を支えてきました。
山間部の多い国土の中で、限られた平野を中心に人が集まり、街や都市を形成していきましたが、住居を縦に積み重ねる集合住宅と、それを区分所有する分譲マンションというカタチは、国の住宅政策でも大きな役割を果たすと共に、爆発的とも言える勢いで増殖していきました。

1-2.高まり続ける永住志向
昭和の行動経済成長期には、「住宅すごろく」と言われる、あたかも人生ゲームの正解とされたような住み替えモデルがありました。誤解を恐れず一例を述べますが、学生時代の下宿から、就職して2K賃貸アパート、結婚・出産で3DK賃貸マンション、出世して一戸建てを購入して「あがり」というものです。
しかし、国交省が昭和55(1980)年から5年毎に実施している「マンション総合調査」では、マンションに「永住するつもり」の62%は「いずれ住み替えるつもり」の17%を大きく上回っており、マンションは「終の棲家」すなわち「あがり」の住居形態として成立するように変わっていきました。
すなわち、マンションに「長く暮らしていく」ことになり、それはマンションにとっては「長く使える」ことを必要とされたことになります。


1-3.ストックマンションの様々な課題

今や、約700万戸もの分譲マンションの多くが築30年以上となり、20年後の2042年には過半数である445万戸が築40年以上となる見込みです。時代の要請通り、マンションは長く使えているように見えますが、実は、多くのマンションで「老朽化・劣化による課題」に直面しているのが現実です。

1-4.建替えという選択肢
築40年を超えてくると、漏水事故が頻発するようになり、その多くは専有部からの漏水であり、生活の質を大きく損ねるようになります。また、1981年6月以前に建てられた建物は、いわゆる「旧耐震基準」時代の建物であり、約103万戸も存在しています。

こうなってくると、旧耐震基準で漏水が頻発しているマンションは、建替えという選択肢についてソワソワしてきます。耐震や漏水といった、目の前の大きな課題を一挙に解決できる「建替え」は、非常に魅力的に映るでしょう。

しかし、現実は厳しく、築40年以上の分譲マンションで建替えが実現したケースは2%程度しかありません。計画面、資金面、合意形成面などの高いハードルが立ちはだかっているのです。

建替えができず、ある意味で「だましだまし」修繕して使い続けているマンションがある一方で、未だに年間10万戸近くの新築マンションが建設されています。すなわち、ストックマンションの数は、少子高齢化が進む今なお、増え続けているのです。

高度経済成長期には、社会基盤であり、夢や希望の象徴であり、団地やニュータウンなど、郊外が積極的に開発されていきました。その後、湾岸エリアの再開発などで、都市への回帰トレンドもあり、タワーマンションブームなど、マンションという住居形態は、色々な形で世の中に増殖していきました。

そして、それらが一斉に高経年化している今、「高経年分譲マンション」は、社会においてあまりにも重く大きな問題と変わっています。
そこには「所有者・居住者の高齢化」と「建物の老朽化」という【2つの老い】という課題が大きく横たわっています。

私たちは、この問題とどのように対峙していく必要があるのでしょうか。
建築と運営の面から見ていきましょう。

第2章 建物の「3つの劣化」

2-1.建築物としてのマンション(躯体と設備)
ほとんどのマンションはRC造もしくはSRC造でつくられており、鉄筋コンクリートという頑丈な躯体こそが、良くも悪くもマンションの寿命に影響を与えています。
躯体だけでは、単なる空間でしかないが、そこに設備(インフラ、配管、配線などを指す)や仕上げ(内外装)が加えられて、住居としての機能を有するようになるのです。マンションに限りませんが、【躯体】と【設備】、大きくはこの2つで構成されているのです。

2-2.建物の「3つの劣化」
建物の劣化には3つあり、そのうち【物理的劣化】は大規模修繕のメインテーマである屋上防水や外壁の修繕などは、ここにあたります。
次に【機能的劣化】は、まだ使えるが陳腐化しているものや既存不適格などを指します。
最後に【社会的劣化】は、進歩する時代の要求に応えられなくなっているものなどがあたります。

大規模修繕を行う最も重要なテーマは「漏水」です。漏水による被害は、生活に与えるダメージが大きく、また最も早期に発生しやすい劣化の一つと言えます。

躯体においては、屋上防水や窓サッシなど開口部などのシーリングなど、雨水漏水を防ぐため、建物を仮設足場でぐるりと囲み、全面的に修繕を行うという、工事も金額も規模の大きな修繕なので、大規模修繕と言われます。
設備でも、配管からの漏水を防ぐために、排水管や給湯管などの更新を行う必要が出てきます。

これら躯体と設備について、管理していく最低限のスタートラインとなる「目的」は「安全で快適な暮らし」を確保することとなります(下図参照)


2-3.マンションの寿命とは

建物の寿命を決める要素として【躯体】【設備・インフラ】【劣化・時代適応】が挙げられます。
躯体は、大規模修繕などで適切に管理していれば、築100年以上を目指せることも少なくありませんが、設備はそこまでの耐久性がないため、更新や改良改善が必要となります。


2-4.建替えという選択肢

結論を先に述べてしまうと、分譲マンションの建替えには、デベロッパーの参画が必要であり、ある程度の建物規模と、建替えたら大きな建物が建つ条件が必要な管理組合だけがデベロッパーに選ばれ、建替えという選択肢を検討できるという世の中になっています。
1970年代に、中高層マンションの建設により日照権の訴訟があちこちで勃発した時代があり、その影響で「日影規制」という法律が1976年に制定されました。
制定前の建物の多くが築50年前後となっている現在、それらを建替えようとしても既存不適格により大幅に減築となるケースは少なくありません。大幅な減築となる場合、管理組合としては到底受け入れられるものではなく、建替えは非現実的な選択肢でしかないのです。

第3章 管理組合と「3つの不足」

3-1.管理組合と区分所有法
分譲マンションは、管理組合を設置し、区分所有者全員が組合員として、共有財産であるマンションを管理することが義務付けられています(区分所有法)。実際には、理事会という執行機関があり、代表として運営を進行していきます。また、大半の組合では、管理会社に日常管理業務を委託することで、自分たちの負担を減らしています。


3-2.区分所有者の勘違い

そんな中、未だに多くの区分所有者が勘違いしているのが「マンションを管理しているのは管理会社」であり、「管理組合は管理会社の言うことを聞かなければならない」という間違った認識です。管理組合は区分所有者の集合体であり、所有者(の集まり)である組合が、管理会社にお金を払って業務を委託しているわけですから、主従の関係で言えば「主:管理組合」「従:管理会社」になるわけです。
この勘違いが発展すると「建物の管理は管理会社の責任であり、組合の責任ではない」という誤りとなり、建物の不具合について管理会社に対して猛烈なクレームをつけるなんてこともあります。管理費や修繕積立金は、自分たちのお金で、いくら集めて、何に使うのか、自分たちで決めるものです。

3-3.建物の管理と組合運営
管理組合は、建物を管理しなくてはなりませんが、そのためには円滑な管理組合運営が必要となります。そのためには、中長期の計画と、十分な広報が不可欠ですが、特に中長期の計画については、建物の専門家の力が必要です。
管理会社はどちらかと言えば管理組合運営の専門家としてのスキルが高く、建物の専門家としてのスキルは設計事務所などのコンサルに軍配があがるでしょう。管理組合は、建物の管理はコンサルに、運営は管理会社に相談する、という形で専門家たちの力をうまく活用していくことが望ましいと思います。

3-4.管理組合の「3つの不足」
さて、管理組合の望ましい姿とは異なり、実際は「3つの不足」を抱えている組合が多い実態があります。
建物の管理と円滑な運営は、自分たちの問題であり、組合が主として取り組む必要があるにも関わらず、「管理会社もいるし、特に問題も無いだろうから、誰かがやってくれるだろう」という【興味不足】

「大規模修繕したし、見た目がキレイなんだから、修繕の必要なんて無い! だから、修繕積立金を値下げしてほしい!」とか、「建替えたらタワマンみたいになって、ほとんどお金かからないんでしょ」などの【理解不足】

特に郊外のベッドタウンなどに立地するようなマンションでは、区分所有者が一斉に高齢化していくことによる(理事会の)【なり手不足】

この3つの不足が組合内に蔓延していくと、マンションの将来に暗雲が立ち込めてくるでしょう。
なり手不足については、管理会社やコンサルの力を借りることができます。その上で、「興味」をもって、「理解」を深めることが重要です。

ここまで、高経年マンションが抱えている背景などについてご紹介してきました。
第2部では、いよいよマンションの終活の取り組み方や事例などをご紹介できればと考えています。次回もどうぞお楽しみに!

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