マンションの終活/第2部~進むべきは、建替えか、長寿命化か~

マンションの終活/第2部~進むべきは、建替えか、長寿命化か~

まずは、第1部をおさらいしてみましょう。
【第1章】
激増するストックマンションと二つの老い(老朽化と高齢化)という社会構造的な問題がある中で、マンションに長く快適に暮らし住み継いでいくには、どうすれば良いのか。
【第2章】
人口減少と空き家増加が進む、生き残りをかけた戦国時代の中で、建物の3つの劣化(物理的劣化・機能的劣化・社会的劣化)全てに対応しなくてはならないこと。
【第3章】
最後に管理組合の3つの不足(なり手不足・興味不足・理解不足)が、進むべき方向を迷わせてしまっていること。

これらの前提の中で、マンションの終活をどのように進めていけば良いのでしょうか。

第4章 マンションの終活とは

終活検討の前提として、マンションストックが増え続けている中、少子高齢化も進んでいることを見逃すわけにはいきません。人が減るのに、建物が増えていく。既に問題となっている「空き家問題」は一戸建てのことばかりではなく、マンションも例外ではありません。

建物が余るわけですから、厳しい比較の目にさらされることになります。選ばれる物件と選ばれない物件、この二極化が進んでいくことが容易に想像できます。まずは、この前提をふまえ、終活をどのように進めていけば良いのかをひも解いていきます。

4-1.建替えができれば特に問題は無い?
都市計画というものは、国や自治体が定めているものですが、大きな考え方としては、建替えが進んでいくと、都市の整備が進む、というものになります。法律や条例などを整備していくことで、その現行法には適さない建物が生まれていきます。これらの「既存不適格」建物の不適格状態は、建替えられれば解消されるわけです。
しかし現実は厳しく、建替えは進まず、都市としての再生は進みません。それどころか、3つの劣化により、苦しい状況に追い込まれています。
例えば【既存不適格】が「高さ制限」「日影規制」「用途地域」「容積率」などの場合、建替えると建物規模が縮小してしまうケースが少なくありません。特に分譲マンションでは、規模が縮小するとなると、戸数を減らさなくてはならないなど、管理組合として合意形成を図ることが非常に難しくなります。
なんとか現在と同等の規模が建てられるとなっても、今度は建設費の高騰などの影響により、建替えた後のマンションを再取得するために必要な資金が高くなっている状況が、更なるハードルとなっています。数年前までは、戸当たり2,000~3,000万円を負担すれば、マンションの建替えが実現する、というような相場感だったのが、今では4,000~5,000万円となっているケースも少なくありません。

どっちを向いても、建替えが難しい現実しか見えない、という厳しい状況です。

4-2.建替えができない(難しい)ならどうする?
規模や資金の面で建替えが難しい(できない)、というマンションは、どうすれば良いのでしょうか。3つの劣化に対応する「改修」を行い、長く快適に暮らせるような建物に再生することができれば、有力な選択肢になるでしょう。しかし、物理的に可能なのか? 資金的にはどうか? 法的には? 合意形成できる? などなど、様々な憶測と不安が生まれてくるのではないでしょうか。
慌てて議論を進めたことで、検討すべきことを飛ばしてしまった結果、後戻りすることになり、時間も費用も余計にかかったり、合意形成が難しくなるなどの失敗に繋がることがあります。ですので、順を追って検討を進めていくことがポイントとなります。

4-3.検討すべき内容
まずは、建替えができるかどうか、から検討を開始するケースが多い傾向にあります。建替えが可能であれば、より詳細な検討に進めば良いでしょうし、建替えの選択肢が非常に難しいとなれば、改修へ進むことになるでしょう。
改修するにしても、改修するに足る建物かどうか、という確認も必要です。主に躯体の健全性を指します。これらを順を追って検討することが、合意形成が必要なマンションの終活となります。

第5章 マンションの終活検討の代表的な流れ

5-1.建替えができるか、ボリュームチェック~経済性の確認
建物が建っている敷地は、用途地域が定められています。建ぺい率・容積率をはじめ、高さ制限、日影規制、斜線規制など、様々な制約を受けます。建替えの場合、新しい建物は現行の規制を受けるので、その規制の範囲内でどれくらいの大きさの建物になるかを検討する必要があります。最初の一手です。
今の既存建物が新築された当時には無かった制約がかかっている場合もあります。いわゆる「既存不適格」状態の建物ですので、その場合は今の既存建物とは規模が変わってくることが想定できますが、殆どの場合は今よりも小さな建物しか建たないでしょう。現在100戸のマンションだったのが、60戸分程度の規模に縮小されてしまう、といったケースです。
運では無いのですが、あえて「運良く」今よりも少しでも建物が大きくなる場合は、是非建替えを真剣に検討することをお勧めします。なかなか少ないのが現実です。

ボリューム(建物の大きさ)を確認したら、経済性も併せて確認しましょう。
既存建物の解体費、設計費、工事費、販売にかかる費用などをシミュレーションします。コストだけでなく、建替えたマンションが高値で売れるかどうかも重要な要素となります。
検討の結果、平均で1戸当たりの負担額がいくらくらいなのかをおおまかにつかんでいきます。ちなみに、今は1戸あたり2,000~3,000万円程度は必要だと言われていますが、もっと高くなることも考えられるため、そのうち4,000~6,000万円といった金額帯になるかもしれません。
結論から言えば、今建替えたいマンションがあるならば、今の条件で頑張れるかどうかをシンプルに判断していくのが良いと思います。

5-2.ボリュームが小さくなる、経済性が非常に悪いケース~躯体耐用年数評価~
建替えが難しい場合、改修についての検討を始めることになります。どんな改修計画にするかを決める前に、そもそも建物が健全かどうか、改修する価値があるかを確認したいものです。
殆どのマンションの構造躯体は「鉄筋コンクリート造」であり、この躯体が頑丈か、健全かどうかをチェックする「躯体耐用年数評価」という調査があります。コンクリートは適切な圧縮強度があるか、中性化が進行していないか、などを評価します。

鉄は空気中ではだんだん錆びていくのは、ご存知の通りですが、コンクリートは強アルカリ性なので、コンクリート内部の鉄筋は錆びません。これが、鉄筋コンクリート造の長寿命の最大のポイントですが、コンクリート表面から徐々に中性化が進行し鉄筋の深さまで達すると、遂には鉄筋が錆び始めます。そこで、コンクリートの中性化がどれくらい進んでいるか、中性化深度を計測することで、残存年数を推定することができます。

これらをコンクリートがしっかりしているか、鉄筋が錆び始めるまでまだまだ時間があるか、を調べることで、建て替えが難しい場合、建物を長寿命化させるべくコストを投下するか否か、その価値がある建物かを判断する材料を手に入れることができます。
クルマに例えてみれば、フレーム(シャシー)が錆びてボロボロな状態(安全に走れない)にもかかわらず、大きなコストをかけてエンジンを載せ替えたりタイヤやブレーキ、シートや内装などを交換しても、安全で快適に乗れない、という説明がイメージしやすいでしょうか。コンクリートがスカスカで強度が足りなかったり、内部の鉄筋が錆び始めるまで時間が短いのに、あと50年やもっと長く使えるように配管配線などを更新したり、エントランス周りを大幅に改修したりするのは、そのコスト投下に疑問があると思います。
このように、躯体耐用年数評価では、躯体が健全かどうか、推定であと何年健全性を保てそうなのか、という評価ができます。今からあと50年、100年の健全性が期待できるのであれば、安心して改修検討に着手できます。

5-3.躯体が健全なら、改修項目を検討~長寿命化へ
どこをどのように改修すれば良いのか、まずは必ずチェックしなくてはならない項目があります。老朽化マンションで最も多い課題といえば配管の劣化です。共用立管よりも専有横引管からの漏水が問題となるケースが多く、築40年くらいから漏水事案が頻発するマンションが多い傾向があります。
立管も横引管もつながった一体の配管設備ですので、区分所有者と管理組合で責任分担が明確に分かれている場合であっても、管理組合が主体となって取り組むケースが増えてきています。国交省でも、立管(共用部)と横引管(専有部)を一体に更新することは合理的であり、ガイドラインでも推奨していますし、住宅金融支援機構でも横引管更新費用までを融資対象とするように整理をしている現実があります。
しかし、問題は管理組合の合意形成です。専有部内の工事となると、内装の一部解体復旧が必要になります。場合によっては、浴室を一度撤去する必要もあります。専有部内の工事を管理組合で行えるようにするために、規約改定をはじめ、色々と整理しなくてはならないことがあります。ここでは詳しく説明しません(是非翔設計にご相談ください)が、多くの管理組合では、漏水は死活問題なので、何とかなるように、前向きに取り組んでいるケースが増えています。

その他、そこまで行うのであれば、合わせて実施したい改修項目が出てきます。共用部と専有部が一体となっているものは、配管以外に配線類もあります。電話回線、インターネット配線、オートロックシステム、電気配線などがあります。
他にも、専有部内で完結しているものですが、給湯管もあります。給湯管は銅管を使用しているケースが多く、経年でピンホールが空きやすく、築30年を超えてくると、給湯管からの漏水事案が真っ先に増えてくるマンションは少なくありません。

これら、給排水管以外の設備についても、同時に行うことで合理性が高いものから優先的に検討を進めていくことが重要です。何でも全部やろうとすると巨額のコストが必要となりますので、資金調達や資金計画などを含め、検討には多少の時間が必要となります。
最近では、この「長寿命化」をテーマとした「将来計画策定」のお手伝いを多く行っていますが、1~2年程度の期間をかけて行うことが多い傾向です。検討にもコストがかかりますので、年度予算などの都合もあると思いますが、マンションの将来を考える上で、非常に重要な検討フェーズとなります。

5-4.究極の長寿命化「スーパーリフォーム(一棟リノベ)」
建替えようとすると規模が半減してしまう、新築を買うより高くなる、といった「建替えが困難、非現実的」なマンションが「長寿命化」に舵を切り、「長く快適に暮らし住み継ぐ」ことを目指す場合、究極のカタチがあります。それは、躯体を残して、設備全てを一新し、3つの劣化に対応させ、時代適応を実現する、一棟丸ごとリノベーション「スーパーリフォーム」です。

躯体耐用年数評価で、残存寿命が100年以上となるマンションも少なくない中、「長持ちする躯体」をメンテナンスし、ダメになった「設備・インフラ」を更新し、「時代適応」していく方法となります。

この場合は、建替えと同じように、居住者は一度退去して仮住まいで生活する必要があります。建替えとは違って、躯体の形は変わりませんし、あくまでも非常に大がかりなリフォームですので、所有している号室はそのままです。また、躯体を壊して新しく作り直すわけではなく、そのまま使う(悪いところがあれば補修します)ので、工事期間も建替えよりも短くなります。
これは、共用部だけでなく専有部も全て内装解体して再構築していくため、専有部内の工事に対する合意形成が必要となります。現在の法整備の中では、実は100%合意が必要になります。総戸数10戸程度の小規模マンションでもなければ、100%合意というのは非常に難しいと言わざるを得ません。建替えが4/5(80%)の賛成で可能となり、それが3/4(75%)へと緩和されようとしている中、建替えではなくリフォームについて100%というのは、逆転現象が起きている状態と言えます。現在法務省では、この逆転現象を解消すべく、建替えと同等かそれ以下の合意形成でスーパーリフォーム(一棟リノベ)が可能になるような検討を進めています。
このように建替えが難しい場合の救済策のような「スーパーリフォーム」ですが、現時点では100%合意という高いハードルにより実行が阻まれています。しかしいずれ法改正が行われるであろうという予想の中、今から検討を始めている管理組合も出てきました。翔設計では何件もこういった検討をお手伝いしています。

5-5.旧耐震物件はどうする~耐震補強スーパーリフォーム~
高経年マンションの中には、旧耐震物件も少なくありません。約103万戸の旧耐震マンションが現役でいる現実があり、決して小さな市場ではありません。

「旧耐震物件は大地震で必ず倒壊する」、「新耐震は大地震で必ず倒壊しない」、これはどちらも不正解です。マグニチュードという地震エネルギーは、数字が0.1大きくなると32倍、1.0大きくなると約1,000倍変わります。大地震が起きたときに、どの方向からどのような大きさのエネルギーが作用して、どのように揺れるか、それを推測することはできません。国では、これまでの膨大な事例検証を含め、ある一定の基準で線引きをして新耐震基準としています。
その基準に近いマンションと遠いマンションでは、検討の温度感も違うでしょうし、管理組合がどのように結論を出すかでしかありません。大地震が来たときはもう仕方がない、できる範囲で補強して、住みやすさの改修を進めよう、という結論を出している管理組合も実際にあります。
ただ、建物の耐震は命に対してはとても大きいということは、明らかとも言えます。例えば、阪神・淡路大震災の集計の一つからは、検察した死者の93.6%は、地震発生15分以内に死亡していたと推定されています。これは、安全な建物の中にいたかどうか、ということが読み取れるのではないでしょうか。国や自治体が耐震補強をしてください、補助金も出します、と言っているのは、それだけ重要なテーマだからでしょう。
耐震補強とスーパーリフォームを合わせて実施することも合理的です。場合によっては、二方向避難などの既存不適格を自主的に解消することができるケースもあるでしょう。旧耐震物件は、まだマンションが少ない時代に建てられているわけであり、好立地に建てられているマンションも少なくありません。たたずまいを含めて、いわゆる「ビンテージマンション(その基準はありませんが)」と呼ばれる建物を残していく取り組みとして「耐震補強スーパーリフォーム」を検討しても良いと思います。
一点、重要なことは「耐震補強」は必ずできるわけではない、ということです。合意形成的に、資金的に、ということではなく「物理的に」の意味になります。多くのマンションの耐震補強に使われる「外付け補強」では、マンションの外側に補強部材を取り付けることになりますが、物理的にそのスペースがとれない場合もあります。このように、耐震補強は物理的にできるできないと、合意形成・資金的な面の両方をクリアする必要があるのです。

第6章 マンションの終活まとめ

6-1.終活検討フローチャート(例)

ここまで出てきた検討フェーズをフローチャートにしたのがこちらの図です。どこから検討をスタートするかは、管理組合によりますが、多くの場合はボリュームから入ることが多いので、多くのマンションでこれが指標となるのではないでしょうか。

進むべき、とありますが、選べる管理組合は非常にラッキーであり、多くの場合は、進むことができるのはどっちの方向か、を調べることになるでしょう。しかし、この終活を行うことで、無理なことに無駄な検討(時間、お金、労力)をすることなく、検討すべきことがクリアになるので、多くの高経年マンションで行いたい検討となります。
何をするにも合意形成が必要な管理組合という性質上、きちんと根拠をもって進む方向を確認できること、何を検討すればよいか明確になることは、非常に有用な取り組みではないでしょうか。

6-2.さいごに
マンションの終活について、2部に渡ってお話をさせていただきましたが、いかがだったでしょうか。分かりにくい部分もあったかと思いますが、目的は「楽しいマンションライフ」「長く快適に暮らし住み継ぐ」「マンションという資産を守る」ことにあります。検討の大変な部分は専門家に任せつつ、みなさんはこの目的のため、「楽しく」検討を進めていっていただければ何よりです。

みなさまのマンションライフが、より楽しくなることを、心から願っております。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

■余談/マンション管理士のみなさまへ
翔設計では、増える終活相談に対応すべく、人材強化を図っております。マンション管理士の皆さまには、是非この終活のお手伝いを一緒にしていただきたいと願っております。少しでもご興味をお持ちの方は、お気軽にお問合せいただければ幸いです。
0120-030-630(平日9:30-18:00)
お問合せフォーム(HP) https://www.sho-daikibosyuzen.jp/bn-top/bn-inq/
株式会社翔設計 コンサルタント本部 第1グループ 北島 まで

■問合せ先:株式会社翔設計 コンサルタント本部 北島
メールアドレス:info@sho-sekkei.co.jp
電話番号:03-5410-2525
会社の特徴:
建物の一生(企画~調査~設計~施工~改修~再生・建替)をマネジメントする建築総合コンサルタント企業です。1,200以上の管理組合との業務実績を持ち、大規模修繕だけでなく、給排水管更新、耐震補強、将来計画策定、マンション終活・再生検討、日常コンサル、内装リフォームなど、全方位でサポートできます。
人気の「翔設計セミナー」では、課題解決の最新トレンドなどをご紹介しており、無料メルマガ登録を受付けています。
会社のURL:https://www.sho-daikibosyuzen.jp/