特別寄稿 分譲マンションの窓・玄関ドア改修工事と補助事業(その2)

【管理組合で検討すべきこと】

YKK AP株式会社 首都圏改装支社 営業推進部 長田 克也

前回「その1」では、分譲マンションの開口部(窓や玄関ドア)改修工事に関係する補助事業について、2010年の「住宅エコポイント制度」からはじまり、現在の「住宅省エネ2024キャンペーン」に至るまでのお話をさせていただきました。
今回はその「補助事業」を活用して開口部改修工事を実施するにあたり、管理組合の中でどのような検討をしていくべきかについて、触れさせていただきます。

1. いくらかかるのか?現状の修繕積立金で賄えるのか?補助金はいくらもらえるのか?
2. 住民は改修工事に賛成なのか?反対派はいないのか?
3. 補助金は絶対にもらえるのか?
4. 工事実施後の効果はどのようなものがあるのか?
5. 他の工事との優先順位付けはどうすれば良いか?

おおまかに分けて、このような感じになるかと思われます。以下、ひとつずつ見ていきましょう。
1について、まずは予算的なお話です。最近では長期修繕計画に「開口部改修工事」を組み込まれている管理組合は増えてきましたが、まだまだ少ない状況です。「いくらかかるか全く分からない」という管理組合は多いです。また長期修繕計画に含まれていたとしても、その計画作成時期から年数が経過していますと、現在の価格情勢に合っていない可能性があります。そのため、まずは業者から見積を取ることが大切です。見積をするにあたり、良く言われるのが「概算で良いから・・・」ですが、結局のところ既存の窓や玄関ドアの状況を部屋内から見せていただき、更に全体像の把握や法的チェックのために建築当初の建築図面(意匠図面)を見せていただくことが必要になります。更に改修後の窓や玄関ドアの仕様も決める必要があります。これについては業者に任せても良いですし、管理会社や委託されているコンサルタントにお願いしても良いと思います。まずは「いくらかかるのか?」を知りましょう。その上で現在の管理組合の修繕積立金との確認が必要です。また補助事業も使った方がお得になります。現在では色々な補助事業がありますので、それがいくらぐらいになるのかを把握することも大切です。見積ができれば補助見込額を計算することは可能です。

お金の目安がついたところで、次は2についてです。「住民はどう考えているのか?」という点です。みなさん色々なご意見をお持ちです。修繕委員の方々は「マンションの建物の維持管理」が役割なので、改修工事に積極的な意見を言われるケースが多いです。でもその中でも他の工事との優先付けがあります。次の大規模修繕工事との兼ね合い、他の設備工事との兼ね合い、という感じで色々です。一方で理事会のみなさまは慎重論を言われるケースがあります。管理組合の運営全体を考える必要がある訳ですから当然です。最終的には総会に推し量る内容ですので、住民の総意が必要になってきます。多くの管理組合が実施しているのは「住民アンケート」です。これは大変重要です。手間がかかっても、時間がかかっても実施されることをお勧めします。改修工事に前向きな考えをお持ちの方がどのくらいいるのか?ということを数値化して、更になぜ改修したいのか?を具体的に捉えることが大切です。そのような準備をして、色々な意見を聞いて、議論をして総会の議案にあげるべく作業を進めていく必要があります。
改修工事に積極的になっていただく要因として、3の補助金も重要です。この補助金は100%確保できるものではありません。特に国の補助事業は単年で実施されます。前年に実施されていた補助事業が、改修工事が行われる年度になったら実施されなくなる可能性があります。また実施されたとしても事業の制度設計が変更になる可能性もあります。更に補助事業は予算ありきです。予算の消化状況によっては補助金を獲得できないという可能性もあります。そのため基本的には「補助金が得られなくとも工事は実施する」という総会決議内容が必要になります。もちろん改修工事関係者には補助金獲得の最大限の努力をさせることは必要です。一方でこれら補助事業はいつまで続くかは分かりません。更に昨今の資材・燃料高騰や、建設従事者の不足、4週8休制等もあり、今後改修工事の費用が下がることは考えにくい状況です。そのため「補助事業があるうちに・・・」と考え、修繕積立金の値上げ、一時金の徴収、工事費用の借り入れ等、管理組合も色々な対応をされているケースがあります。これらも全て総会決議事案になりますので、合わせて検討していくことが必要です。
4について、改修工事に賛成されている方々は、工事に一定の期待感を持たれていると思います。改修工事後にそれが期待通りだったかどうかということも重要です。我々メーカーや業者は良いことをクローズアップしてみなさまにお伝えしています。逆に「そうでないお話」は言いにくいところです。私がこの仕事を始めた2010年のころ、ある管理組合でプレゼンをしたところ、「アンタは良いことしか言っていない」と言われたことがあります。それ以来、「そうでないお話」もお伝えするようにしています。例えば前出の「補助金は100%確保できるものではありません」というのもそうです。他、改修工事を実施された管理組合に聞くと、ネガティブな話まではいかないにしても、「今までとの変化」に戸惑う方が居るのも事実です。この部分を工事前にお伝えしていくことは必要だと思っています。それでも「所詮メーカーの言うこと」と思われることもあります。そんな中、今年の2月に「その1」でお話しました補助事業の執行団体「(公財)北海道環境財団」が、補助事業を活用されて開口部改修工事を実施された管理組合に、改修工事1年後と2年後にアンケート調査を行い、それをホームページ上で公開しました。これには改修工事実施前に期待したこと、心配したこと、改修工事実施後に評価すること、改修工事実施後に不満なこと、空調機器の仕様頻度等が出ております。是非このメールマガジンを読んでおられるみなさまには、こちらを見ていただきたいと思います。メーカーの意見ではなく、管理組合の意見です。たとえば「窓を改修すれば毎月の電気代が安くなります」というのはメーカーの言い回しです。これがこのアンケートでは「毎月の電気代は安くなっていないが、窓を改修していなかったらもっと上がっていただろう」という表現になっています。これがリアルな回答だと思います。

参照:北海道環境財団ホームページ
https://www.heco-hojo.jp/danref/doc/danref_survey2023.pdf

今回の最後の項目になります5ですが、我々が開口部改修工事でお付き合いをさせていただく管理組合は、築30年以上のマンションが多いです。そうなると3回目の大規模修繕工事が控えており、更には給排水の改修工事も控えている管理組合が多いです。たくさんある改修工事のメニューに優先順位を付けていかなくてはなりません。最近少し増えてきたのが「全部の窓を改修工事しなくとも良いのでは?」というケースです。背景にあるのは以前の補助事業は全戸全窓改修工事実施が必須要件でしたが、新しい補助事業はその限りではありません。そうなると開口部改修工事の中で優先順位を付けられるケースも出てきています。以下事例を挙げます。
①.窓の開け閉めの使用頻度や、部屋ごとの滞在時間は圧倒
的にリビングルームが多いので、窓の改修工事はバルコ
ニー側のみ実施し、他の窓は実施しない。
②.①の内容で他の窓はオプション工事として、希望者のみ
が自費で工事を実施する。
③.窓の改修工事は後回しで、まずは玄関ドアのみ改修工事
を実施する。

このようなケースがあります。①については、子育てが完了して夫婦二人住まいという状況下で、北側の部屋は納戸になっているという話も聞きます。限られた予算の中で「納戸の窓まで改修工事する必要があるか?」という議論も必要かと思います。一方で北側の部屋は寝室になっているケースも多く、「寝室を快適にしたい」という声もあります。その場合、北側の窓は開閉頻度が少ない訳ですから、専有部分工事で内窓設置という選択肢もあると思います。こちらの方がコストダウンはできます。もうひとつ最近出てくる話として、事例は少ないですが全体での改修工事を諦めて、最初から希望者のみの個別改修工事を実施されるケースもあります。ただし個別改修工事は全体改修工事と比較すると相当割高になります。最初は手を上げられていた方が、金額をお伝えすると辞退されるケースが少なくありません。私は全体改修工事をお勧めします。

このように開口部改修工事にはたくさんの検討すべきことがあります。今回お伝えさせていただいた内容は「総会実施の前段階」です。管理組合のみなさんは、これにプラス「業者の選定」もしなくてはなりません。最近もう一つ増えた事象として、「総会決議前に住民説明会を行う」というケースです。これは理事会や修繕委員会のメンバーは、たくさんの打ち合わせに参加して改修工事への理解度が上がっていますが、一般の区分所有者の方々は「開口部改修工事って何?」という方が多くて当然です。その状況下で総会に出席するのではなく、疑問点やご自身の希望を意見する場を作り、完璧ではないまでも、ある程度の理解を持って総会に臨むということも大切だと思います。それには業者は早めに決めて、総会前にその説明会を実施するスケジューリングが必要です。

次回3回目では、「総会決議後のスケジュール」をお伝えできればと思っています。このスケジュールの組み方には、先ほど触れた「そうでない話」のひとつである「補助金の獲得は100%ではない」という部分に関係してくるところもあります。補助金獲得の確率を上げるには、スケジュールに余裕を持って改修工事の準備をしていくことが必須です。この部分の話もお伝えできればと思っております。

今回も最後までご覧いただきありがとうございます。また次月よろしくお願いします。

特別寄稿への問合せ先
会社名:YKK AP株式会社 首都圏改装支社 営業推進部 長田 克也
メールアドレス:k_osada@ykkap.co.jp
電話番号:080-1321-9261

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