特別寄稿 戸数の少ない築古マンションの管理の今後について
戸数の少ない築古マンションの管理の今後について
~マンション管理士の活躍のチャンス~
イノベリオス株式会社 営業部 益子 靖隆
1. 現状
現在マンション管理の環境が大きく変わろうとしています。マンション管理は人々の生活に直結していることから個別の問題は数多くありますが、今の起きている変化は今後のマンション管理の形態を大きく変えていく可能性がある変化だと考えています。
その中で一番影響を受け、苦しくなっていくのは築古で戸数の少ないマンションだと考えています。
問題点と解決策を考えていく前に、戸数が少ないマンションはどのくらいあるかを押さえてみます。
少々古いデータですが、2013年の東京都による『マンション実態調査結果』によると
20戸以下のマンションは全体の43.4%、40戸以下だと70.7%に上ります。これは東京都のマンションが対象なので、都道府県によって変動はあると思いますが、参考になると思います。
出典『マンション実態調査結果』東京都都市整備局
次に築古のマンションについてみていきたいと思います。
棟数の資料は無いのですが、戸数の資料で見ていこうと思います。国土交通省の「分譲マンションストック数の推移」では2022年までに694.3万戸が供給されています。このうち現在築40年以上となる住戸は135.9万戸で約19.6%、築30年以上となる住戸は273.3万戸で約39.6%となります。
出典:国土交通省のホームページ
ここから築古で戸数の少ないマンションの割合を、類推すると以下の表のようになります。
築30年以上 | 築40年以上 | |
20戸以下 | 17.2% | 8.5% |
40戸以下 | 28% | 13.9% |
築30年以上で40戸以下のマンションは全体の28%になることが分かります。
また、国交省のストック推移表を見ますと、1995年から2009年までの供給戸数がとても多いことが分かります。1995年ということは、来年には築30年になるのです。したがって、上記の表の数字は来年以降大幅に増えていくことになります。
2. 問題点
上記の1を押さえた上で、小規模築古マンションの問題点を見ていきたいと思います。主に3つがあげられます。
・インフレ
・財務規模
・高齢化
まず一つ目のインフレです。
日本の4月の消費者物価指数(CPI)は2020年を100とするとは107.1となっております。4年で7.1%も物価が上昇しています。
では、今後はどのように推移するのか、IMF(国際通貨基金)が4月に発表した数字だと、日本のCPIは120を超えると予想しています。5年後には現在より1割強物価が上昇するという事です。
次に人件費も見ていきます。
管理員や清掃員の給与は最低賃金に近い給与ですので、その推移を見てみます。東京都の最低賃金は、2020年度は1,013円でした。2023年度は1,113円です。つまり約10%上昇しています。これに関しては今後の予測は無いのですが、物価と同様の上昇を見せることは間違いないでしょう。
また管理会社は労働集約型産業の典型ですので、管理員に限らず、フロント、設備等の点検員等、人が多く関わっていますので人件費の影響はそのまま利益に直結します。現在、管理会社が管理委託費の増額を提案しているのはその為です。
二つ目は財務規模です。
これは管理組合の財務規模のことです。当然の話ですが、戸数が多いほど、また戸当たりの管理費等の負担額が多いほど、財務規模は大きくなります。
2018年に国交省が発表した「マンション総合調査」の中で、単棟型の平均の管理費は15,956円です。修繕積立金は入っていません。
200戸のマンションであれば年間3800万円強の収入になりますが、20戸のマンションだと年間380万円強の収入しかありません。規模により固定費の金額も変わってくるものの、財務規模が小さいとコスト削減の余地が小さくなります。100万円の点検費用を1万円減額依頼するのと、10万円の点検費用を1万円減額依頼するのでは、同じ1万円でも点検会社の受ける印象は大きく異なるでしょう。つまり現状の管理仕様を維持しようと考えるのであれば、財務規模の小さな管理組合は管理費を上げることしか選択肢が無い状況に追い込まれ易いという事です。
三つ目の高齢化ですが、築古のマンションには高齢者が多くなります。物価が上がれば遅れて給料も上がっていくもので、年金も上がっていきますが、年金の受給額は人によって様々ですので、値上げに耐えられない人たちが過半数となると管理費を上げられる可能性が少なくなるのです。
さらにインフレによる建築資材や作業員の人件費の高騰は、将来の修繕積立金の不足を意味しています。長期修繕計画の工事費は、計画作成時点でその工事をするといくらかかるのか、ということを基準にしており、物価の増減は見込んでいません。つまり、管理費以外にも修繕積立金も増額させなければならないのです。
まとめると、インフレにより管理組合の支出が今後増えていくが、小規模築古マンションは、そうでないマンションに比べて、対応する手段が限られているという事が言えます。
3. 解決策
そんな小規模築古マンションでも解決策はあると思います。マンションによって状況はそれぞれですので一概には言えないのですが、順番としては以下の通りだと思います。
・管理仕様の変更
・管理の内製化
管理仕様の変更はどのマンションも今後は避けられなくなってくると思います。管理会社から管理委託費の増額提案や、仕様の変更を提案された組合は、既に管理会社から利益の出ないマンションと見られているので、なるべく早く取り組んだ方が良いと思います。
まず、管理委託契約の内訳と、当期予算の中から支出金額の大きい項目から見直していきます。
・管理員、清掃員の人件費
多くの場合は人件費が一番大きいと思います。
清掃は常駐ではなく、巡回清掃にすると大きくコストが下げられます。ゴミ出しが一番の問題となるのですが、管理会社によってはその問題を克服した仕組みを展開している場合があります。
さらに、ゴミを居住者自身で回収場所に出すようにすると費用はさらに削減できます。
将来、管理員等、人が常駐しているマンションは戸数がとても多いマンションか、高級マンションだけになると思います。
・各種点検
最低限の点検項目にする基準は、法定点検である点検を法定回数だけ実施するです。実施している点検のうち、これに該当しない点検も多いものです。自動ドアや宅配ボックスの年4回点検などが好例です。
また、費用の掛かる機械式駐車場を止めてしまい、別途工事費はかかるものの平置き化するという手法もあります。
・電気料、保険料、etc
流石に上記が面倒という場合は、現在の管理会社に提案を依頼してみて下さい。結果が芳しくない場合は、管理委託契約書と当期の予算書を他の管理会社に見せて、管理組合が実施する必要のある最低限の管理仕様での提案見積を依頼してみて下さい。但し大手の管理会社の多くは受けてくれないと思いますので、中小の管理会社がお勧めです。弊社ではそういった管理会社の紹介も可能です(エリアによります)。
次に管理の内製化です。内製化とは管理組合が実施するというものです。
上記でもゴミ出しは居住者自身で行うと大幅に削減できると書きましたが、自分達で出来ることは自分達でやることで費用を削減していくという考え方です。この辺のマインドセットを組合全体で変えるというのは中々難しいですが、背に腹は代えられない時がやってくると思います。
ここでのポイントは二つ。「自分達で実施する」と「直接発注」です。
自分達で実施できるのはゴミ出しや自宅の玄関前の清掃とかに限られると思います。なお、弊社のクラセルを使えば会計業務を自分達で出来るようになります。
直接発注は管理仕様の変更をしたうえで、その業務を自分達で直接実施する会社に発注することです。管理業界も下請け構造があります。管理会社→総合ビルメンテナンス会社→各種点検会社というような形です。この管理会社と総合ビルメンテナンス会社の取り分を組合に還元するのです。
さらに総会、理事会も自分達で行うとなると自主管理の姿になります。
このように管理会社の労力をお金で買っている現状を自分たちの労力で行えばお金は残ります。
結局は管理費を増額するか、自らの労力を提供するかの問題なのですが、管理組合内でいかに同意を得ていくのかが大変難しいと思います。しかし、このような判断を、まとまって果断できる管理組合こそが、見えない真の資産価値を有しているのだと考えます。
4. マンション管理士の活躍の場
最後にこのメルマガはマンション管理士の読者が多いという事で、小規模築古マンションにおけるマンション管理士の活躍の場について見ていきたいと思います。
行政による管理不全マンションの洗い出しを各地のマンション管理士会が受託して実施されていました。恐らくこれは定期的に実施していかなくてはいけない状況になると思います。理由は上記にも書いた通り、管理会社が組合の財政的理由で契約できなくなるマンションの増加が見込まれるためです。
結果、洗い出されたマンションの立て直しを実施できるのは一番近くにいるマンション管理士になってきますし、行政もそれを期待すると思います。どのように問題を解決していくかは上記「3.解決策」のように上手くいく例は少ないと思いますし、問題も多岐に渡ると思います。
弊社でも築40年以上の管理規約すらないマンションを、提携しているマンション管理士と共に、管理規約案の作成、長期修繕計画の作成、管理費と修繕積立金の設定、設立総会の実施を経て弊社の会計アプリのクラセルを導入してこのマンションを正常化しました。この場合、マンション管理士は設立総会までの業務を受託し、総会後はクラセルの入力業務と顧問業務を受託しています。
このように立て直しの過程と立て直し後もマンション管理士の活躍する場は自然とできていきます。
また、小規模築古のマンションでは役員の成り手不足が起きることが多いですが、これも外部管理者方式で受託することにより、業務の幅が広がります。
今後は顧問としてアドバイスするだけでなく、積極的に管理組合の実務に関わることが求められると思います。また弊社の会計アプリ「クラセル」等、ITツールを用いることで管理会社が行っている業務を、適正化法に抵触しない範囲で受託していくことも可能になっています。また管理業の免許を取得することも選択肢としてあると思います。
最後にマンション管理士の方々と仕事をしていて問題だと考えている点を指摘します。それは信用力の問題です。簡単に言うと「その方が何らかの理由で働けなくなったら管理組合はどうすればいいのか」という事です。業務の幅を広げて取り組むためにはこの問題を解決しなくてはなりません。
そのために各地にマンション管理士会とは別にマンション管理士の団体が出来始めています。企業やNPOなど、その形態は様々ですが、そのような集団であれば顧客である管理組合も個人事務所に任せるよりも安心して業務委託が出来ると思います。弊社としても提携しやすいです。
マンション管理士は今後、小規模築古マンションでの活躍の場が増えていきます。困難な課題も多いと思いますが、積極的に取り組むことによって社会的課題を解決し、同時にしっかりとマネタイズすることが重要だと考えます。その継続と積み重ねがマンション管理士の地位を上げ、マンション管理士を志す次世代の人間も増えていくことに繋がると考えます。
弊社では上記のような取り組みを実施している、実施しようとしているマンション管理士の方々と提携を進めておりますので、御関心のある方は是非弊社のHPからお問い合わせください。
共にマンション管理の新しい形を一緒に模索していきましょう。
■特別寄稿への問合せ先 会社名:イノベリオス株式会社 営業部 益子 靖隆 メールアドレス:yasutaka_masuko@innovelios.com 電話番号:03-5213-6185 ■会社の特徴 |