特別寄稿 外部専門家活用等のガイドラインの考察

「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」の考察

マンション管理士 渡邉 元

2024年6月に国土交通省から、外部専門家活用等のガイドラインが改定された旨の発表があった。同時に標準管理規約も変更された。改定されたマンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン(本稿では以下単に新ガイドラインという)について、改定に至った理由や概要を説明したい。
新ガイドラインについては、国土交通省のHPに公開されているので、130ページ程度の大部ですが、詳細を確認してほしい。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

1. 新ガイドライン改定の背景と特徴
新ガイドライン改定の背景については、国土交通省のHPで公表されているが、要は昨今の管理組合役員の担い手不足解消等の方策として、管理会社による外部管理者方式による外部管理者方式が増大してきたので、その対応策を明確化したものである。
つまり、今までの区分所有法や適正化法で予想していないマンション管理方式が出てきたので、その対処法を法制化という長期間かかる方法ではなく、基準の作成という速攻性の高い方法で実質上規制しようとしたものであろう。それだけ、社会のニーズに基づいた外部管理者方式の広がりは大きいということだろう。この現実社会のニーズは単に管理組合の役員のなり手不足だけではなく、円安を起因とした管理経費の高騰化も大きな原因となっている。すなわち、管理経費の高騰化に耐えきれなくなった管理会社が管理費の値上げを管理組合に要請したが、管理組合に受け入れられない場合にその代替案として、人件費など管理会社の経費を低減化できる理事会廃止型の外部管理者方式を提案する事例が急増したからである。その結果、管理会社に見捨てられた管理組合が増大し、管理不全になりかねないマンションが増加したことも一因とも思われる。

私は、新ガイドラインの策定は国のマンション施策の大きな変更と考えている。
つまり、区分所有者を中心にしたマンション管理から管理会社を含む外部専門家を中心にした管理に変更することを認めたのである。これまでの施策では区分所有者その団体である管理組合をマンション管理の中心に置き、管理方法の決定権はあくまで管理組合にあり、管理会社やマンション管理士などの外部専門家はあくまで管理組合をサポートする立場であった。しかしながら、新ガイドラインでは、専門家による理事会廃止型の外部管理者方式を認めただけでなく、利益相反の可能性が高い管理会社による外部管理者方式も求め、わざわざ新ガイドライン中に独立章を設けて公認化したのである。
マンション管理組合の全国組織である全国マンション管理組合連合会は、国土交通省の原案に反対の申し入れをしたが、国土交通省はこの申し入れに対し、新ガイドラインの策定という形で答えたのである。
すなわち、管理会社による外部管理者方式自体を禁止するのではなく、その弊害を防止する方向に舵を切ったのである。これはマンション管理施策の大転換といっていいと思う。

2. 外部専門家による外部管理者方式(新ガイドライン第2章)
新ガイドラインの第2章は「外部専門家による外部管理者方式等における留意事項」と名付けられている。ここでいう外部専門家はマンション管理に一定の専門的知識を有するマンション管理士・弁護士などをいう。つまり、本章は外部管理者方式の基本ともいえる事項について基準を規定したものである。

本稿では3つの重要な基準を指摘したい。
第1は管理者業務委託契約である。
区分所有法では、管理者の選任は集会(区分所有者総会)の決議よればよくその詳細は規定されていない。従って管理者の権限や報酬などの詳細は管理者業務委託契約によって決められる。しかしながら、国土交通省の調査で、外部管理者方式を採用した管理組合の50%以上が管理者業務委託契約書を作成していない事実が明らかになった。適正化法上、管理会社に管理業務を委託する場合には管理業務委託契約書の作成が求められ、標準管理業務委託契約書もある。そこで、外部管理者管理方式を採用する場合は、管理者業務委託契約書の作成を原則とし、その内容の指針を示したものである。その指針の内容は、適正化法によって定められた標準管理業務委託契約書の内容を基本としているようである。

第2は監事選任の原則化と権限の拡大・強化である。
監事の選任は管理組合法人以外義務化されておらず、監事を選任している場合も主に会計監査業務に限定されている場合も多い。
しかしながら、外部管理者方式(特に理事会廃止型)では、区分所有者の利益が侵害される可能性が高いので、法人になっていない管理組合でも監事の選任を原則化し、会計監査以外の管理者の業務監査も含めたものである。加えて、管理者の退任など管理者に管理組合の代理業務を任せることが不適当と考えられる場合は、管理組合の代理業務もある。その意味では、廃止された理事会に代わって区分所有者の利益の保護者たる役目を監事に与えたものである。
従って、監事は2名以上を原則とし、1名は外部専門家として拡大・強化された監事業務の執行者とし、他の1名は区分所有者から選任し、区分所有者の利益の保護者として管理者や外部専門家の業務を監視する役目を与えたものであろう。そして監事は管理組合総会によって管理者とは別に選任することにしている。
監事の1人を外部専門家としたのは、マンション管理はテクノロジーの向上や社会状況により変化し続け複雑化しており、専門家や管理業者の管理者に対抗して区分所有者の利益を守るためには、マンション管理の知識・経験がある専門家が望ましいからだ。

第3は区分所有者の意見を管理組合運営に反映する組織(区分所有者評議会等)である。
理事会廃止型の外部管理者方式を採用すると、区分所有者が管理組合運営にかかわるのは年1回の定時総会しかなくなる場合が多い。そこで、評議会などを設立し区分所有者の意思を管理組合運営に反映させようとしたのである。これは理事会の諮問機関である専門委員会とは異なる。管理規約で組織の設置を認め、その概要は細則で決めることになろう。その際、独立性が大事で、管理者は評議会運営にはかかわらないことが必要だと考える。また、評議会の意見は権限が強化された監事に報告し、監事の判断で管理者に勧告するとか、総会の判断を得るなどの方策が必要だろう。

3. 管理会社による外部管理者方式(新ガイドライン第3章)
第3章は管理会社による外部管理者方式を対象としたものである。この章の存在自体が国土交通省の強い意思を感じる。
このような形式によるガイドライン案が突然公表されたのは、2024年3月(最後)の国土交通省外部専門家活用ワーキンググループであった。それまでのワーキンググループでは、外部専門家も管理会社も区分所有者以外という点で変わらないので、外部専門家による第三者管理者型として議論されてきた。しかるに、突然外部管理者方式という名称まで変更して、第3章が追加されたのである。
これは、管理組合と管理事務の受託者たる管理会社は利益相反の関係があり、管理会社が管理組合の業務の執行者である管理者になれば利益相反そのものであるという批判が強く主張されるようになったからだと思われる。前述したようにマンション管理組合の全国組織である全国マンション管理組合連合会は公式に反対を国土交通省に申し入れた。その回答がこの第3章の新設である。国土交通省は、管理会社の外部管理者管理を否定するのではなく、管理会社による外部管理者を認めたうえで利益相反行為をなるべく防止しようということにしたのであろう。
これは、区分所有法が管理者の資格を制限しておらず、他の規制法令もない現状では、管理会社の外部管理者就任を禁止することはできないという法的判断ではないか。根底には、管理組合の内部組織である管理者と管理業務の受託者は異なり、規制する法令も異なるという考え方があると推察する。
従って、今後外部管理者方式を採用する場合には、管理組合の利益を保護するためには新ガイドラインを遵守する必要があると考える。

新ガイドラインにはいくつかの利益相反のリスクを低減化する方策が示されている。
最初は、管理組合に影響を与える利益相反行為の明示化だ。
利益相反行為といっても管理組合に影響を与えなかったり、影響が微々たる行為もある。それらの全てに対し、総会の決議が必要となると、手続きは煩雑だし、区分所有者の負担が増加し、外部管理者制度を導入した意義を消滅させかねĪ。そこで、管理組合に大きな影響を与えない利益相反行為は最初からのぞくのである。
利益相反行為の防止に必要なのは外部管理者の独断を防止することが重要である。そのためには外形的に管理組合に大きな影響を与えかねない利益相反行為をさだめて、影響の大きそうな行為は総会の決議や区分所有者評議会の承認を必要とし、その程度が低いものは区分所有者の代表と位置付けられた監事の同意を必要とするなどである。例えば、業者との契約を締結しようとした場合、契約金額が100万円以上の場合は総会の個別の事前の承認決議必要で、5万円以上は監事の事前同意を必要とするなどである。
それに関して、緊急時の例外も定めている。緊急時に手続きを重視して結果的に管理組合の利益を失わないよう配慮したものである。
管理組合に対する影響が最も高く、利益相反行為が起こりやすいと思われる大規模修繕工事については、修繕委員会の設置を望ましいとしている。
専門委員会である修繕委員会でその内容を精査し、理事会の代替的性格をもつ評議会で判断し、総会決議で決定するというプロセスを考えていると思われる。
その他としては、権限が強化された監事の職務執行を容易に行えるような方策が示されている。管理会社を外部管理者とした場合は、本質的に利益相反の疑いがあるだけに、区分所有者の利益を守る監事の必要性は高い。形式的ではなく実質的な業務監査が求められ、場合によっては自ら総会招集などを行わなくてはならない。そのためには監事には管理会社に対抗しうる知識・経験が必要になる。管理会社による外部管理方式には、管理会社と経済的関係がない外部専門家による監事就任が望まれる理由だ。また、外部管理者による監事にたいする定期業務報告も求められている。これは理事会報告に代わるものだ。

4. まとめ (未解決の問題と予想される今後の展開)
今回のガイドラインの改訂で外部管理者方式の基準が示され、一定の解決を見た。特に批判の強かった管理会社による外部管理者が国土交通省によって公認されたので、管理会社の多くはこのガイドラインを守るだろう。

だが、このガイドラインでは未だ解決できない問題がある。
第一の未解決問題は、理事会廃止型の外部管理者型を採用した管理組合の代表者は誰なのかという問題である。具体的には管理組合を当事者とする契約書に誰が署名するかである。具体的には、第三者と契約する場合に契約書に署名するのは誰かという問題である。管理組合法人では理事会が廃止されても、登記された理事はまだいるので、その理事が行えば良い。
それでは多くの非法人の管理組合ではどうなのか。非法人の管理組合が契約の当事者になれるのは「権利能力なき社団の法理」によるものであるが、管理組合の日常業務の意思決定機関たる理事会が廃止された管理組合がそもそも権利能力なき社団と言えるのだろうか。
もちろん管理者は管理組合の代表者ではなく、管理規約や総会決議に認められた事項以外契約書に署名できない。
理事会廃止型の外部管理者管理を採用する場合は、管理規約に管理組合代表を定める条項を付加するのがよいだろう。

未解決の問題の2は、新ガイドライン2章の対象である外部専門家の定義がないことだ。
区分所有法では管理者の要件に規定はない。従って、管理者は誰でもなれ、株式会社などの法人でもなれる。会社の取締役や管理組合法人の理事が自然人に限られているとは異なる。
新ガイドラインにも外部専門家の定義もない。一般的に外部専門家はマンションに関する専門的知識.経験を持つ国家資格者である弁護士や税理士・建築士をなどイメージする。彼らはそれぞれの分野では専門家だがマンション管理全体の専門家ではない。それではマンション管理の専門家とイメージされるのはマンション管理士以外ではマンション管理会社ではないだろうか。マンション管理会社は第3章により規定され、それは適正化法上の登録マンション管理会社だと考えられる。
それではマンション管理士やマンション管理会社以外でマンション管理に専門的知識・経験も持つものはいるのだろうか。賃貸マンションの管理は分譲マンションの管理と実務はほとんど同じなので、賃貸マンションの管理会社もマンション管理の専門家と言えるだろう。彼らは、区分所有法や適正化法・管理規約など法令に精通していないだけで、マンションの管理者としてマンションの管理実務を担える。その意味ではマンション管理の専門家だ。
何を言いたいかというと、管理会社以外の会社も外部専門家として管理者業に参入できる道を残したのではないかという事だ。つまり、第3章では適正化法の登録管理会社ではないのでその対象ではなく、第2章によって分譲マンションの外部管理者になれるのではないか。現在の法制度では、適正化法で登録されたマンション管理会社以外は規定された基幹業務すべてを含むマンション管理業務を受託することはできない。しかしながら管理者についてはこのような制限する法令はない。賃貸マンション管理業者などは管理組合からマンション管理業務を受託するマンション管理業者にはなれないが、外部管理者としてこれらの業務を自ら行うことは可能だということだ。
現に賃貸マンション管理会社・ビル管理会社・福祉施設運営会社の一部には、新ガイドラインによってマンション管理業者が外部管理者になることが公認されたことを規制緩和のひとつととらえて、参入を準備しているとの話を聞く。
しかしながら、これを認めることは管理組合・区分所有者らは多大のリスクがある。
例えば、適正化法上の登録マンション管理会社は登録要件を満たし、マンション管理に関する国家資格を持つ管理業務主任者を一定数雇用し、それらの者による受託業務内容に関する重要事項説明を義務付けられている。賃貸マンション管理業者などはこれらの制限はない。極端な言い方になるが、適正化法によって区分所有者の利益のために設けられた諸制度を守る義務がない者が外部管理者になり自ら管理業務を行うことで可能になるということだ。

未解決問題の3は、新ガイドラインを実現するための制度が未整備だということだ。
例えば、新ガイドラインでは区分所有者の利益を保護するため、監事の権限増大と外部専門家の起用が原則化された。しかしながら、現在のところ外部専門家の監事を派遣・紹介している公的機関は(ほとんど)ない。地方公共団体はもちろん、マンション管理センターやマンション管理士会でこの業務を新たに行うには、予算などの問題で、相当の時間(数年単位)が必要であろう。それに対し、管理会社は昨年から外部専門家活用ワーキンググループで公開議論されているので、その対策は準備万端であろう。つまり管理会社は数か月以内に新ガイドライン形式的に適合した監事紹介制度をつくり、実質的に管理会社の影響ある監事を選任させることが可能なのである。これでは、新ガイドラインの趣旨は実質的に生かされないことになる。公的団体による外部専門家の派遣・紹介制度の早期導入が望まれる。それまでは、管理組合自身で管理組合の団体など管理会社の影響を受けない団体などの助力を受ける必要があろう。尚、筆者も所属管理士会の仲間10数名と「管理組合を共同運営する会」を作り、管理会社の影響を受けない外部管理者・外部理事・外部監事を推進する活動をしている。外部専門家を考えている方はご相談いただきたい。

新ガイドラインは、外部管理者政制度を導入するにあたりリスクを軽減化するために考える必要があることを網羅的に掲載している。このガイドラインに従えば、リスクは相当軽減されるだろう。その意味で、管理実務でもガイドラインに沿った取り扱いが一般化するのが望まれる。しかしながら、ガイドラインは国土交通省の示した指針であり強制するものではない。ガイドラインに反する制度を導入することは、現段階では原則自由である。新ガイドラインの制定だけでなく外部管理者方式に対応した区分所有法・適正化法の早期な改正が望まれる。

■特別寄稿への問合せ先
MSAマンション管理士事務所 渡邊元(わたなべ はじめ)
メールアドレス:msahajime@gmail.com

■渡邊元(わたなべ はじめ)
MSAマンション管理士事務所 代表
・明治大学法学部卒業
・米国法人総合金融会社・航空会社勤務
・大手マンション管理会社に再就職し、マンション管理士等関連資格を取得
・退職後、独立開業