アメリカ便り(第十九歩)
■見えざる手
去る9月21日水曜日、FRB(米国連邦準備制度理事会)は継続して今年5度目の利上げを発表しました。6月以降は3期連続で0.75%の大幅利上げとなりました。金融引き締めによるインフレ対策。これによって、住宅ローンやクレジットローンの利率負担が益々上がることになります。パウエル議長曰く、「何がなんでもインフレを抑制しなければならない。これには苦しみを伴う。」とのこと。しかしながら、アメリカ生活している中ではその即効性を感じるどころかむしろ逆の方向に進んでいるようにも感じます。
一般消費者からの視点で見た場合に日米の現状はどうなのか?例えば平均的な生活費を比較したらどの程度違うものなのでしょうか?インターナショナルスクールデータベースというサイトで、世界の国別の生活費を比べることができます。
https://www.expatistan.com/cost-of-living/country/japan
このサイトのデータによれば、平均したひと家族の1ヶ月の生活費は米国5,144ドル。これに対して日本は3786ドル。もちろんこれは州や都市によって大きく変わります。各州の主要都市を比較してみると最も高いのはやはりニューヨーク市で267ポイント。これに対して最も低いのがカンザス州のローレンス市の120と、その差は倍以上。一方、同じ評価方法で東京は147で、相模原が125ポイントでした。ちなみにダラスは概算で170ポイント。どうですか?日本は物価高騰で騒がれますが、ドル生活圏の人から見たらそれでもまだ安いと感じてしまいます。
話を戻しますが、FRBの利上げのきっかけとして不動産価格上昇への対策が挙げられると思います。もともと米国では若手人口増加に伴って住居購入需要が強かったところに、コロナ禍で住宅地の供給が鈍化して価格は上昇していったという背景があります。
かのイギリスの倫理学者アダムスミスも国富論で唱えていますが、需要のあるところに供給が減れば自然に物価は上がります。同氏曰く、「個人であろうが企業であろうが個々が利益を追求していく結果、見えざる手によってものの価格が調整され、社会全体の市場が上手くまわるのだ」と。
日本語訳国富論では「神の」が見えざる手の冒頭に付け加えられたそうですが、現在、需要供給の折り合いを神に代わって、なんとかうまく人工的に調整しようとしているのがFRBということになります。FRBが神になれるのか?実は、FRBは株式会社です。株主がいます。米国だけでなく世界の経済に影響のあるポジションの会社の計画を決めるのに、パウエル議長は大株主たちの同意を得るのではないでしょうか。株主が大損しないような計画になるのは当然です。彼らの利益が一般庶民の利益と同じであることを願って止みません。
私なりに考えてみたのですが、金融引き締めによるインフレ対策を取るよりも、不動産にせよ食糧にせよ供給を増やすべきではないかと思います。そこには新たな雇用も生まれます。本来ならば日米ともに国が率先して大々的に行うべきと思います。時間はかかるかもしれませんが人々は希望を持つことができ、精神的にも良いはずです。今年に入って日本政府は記録的な海外支援を行なっているようですが、海外に沢山の円が配られたらその価値はどう影響するのでしょうか?
最後になりましたが、海外から見た日本の生活費の安さを多くの日本人が感じることができない状況も残念に思います。東京や京都その他観光的にも魅力的なところがいっぱいあって、どこの住民も素直で優しい人ばかり。日本の土地や物件を海外の人たちが購入したがるのは頷けます。特に関西や北海道が心配になってしまうのは私だけでしょうか。。。 最近Google マップで実家の茨城県周辺を拡大してみたのですが、あちこちの小さな雑木林や立派な山が太陽光パネルで覆われてしまっていたのを見つけて衝撃を受けました。先日、長渕剛さんが北海道でのコンサート中に痛切な訴えをされて話題になっていました。「大事な日本の土地を外国人に売らないで欲しい!」と。
https://www.youtube.com/watch?v=E6-B5MeoIOM
日本の国際化も仕方ないかもしれませんが、多くの先人たちが築き上げてきた日本の素晴らしい文化は子供たちに継承しなければなりません。これから世界の中心になっていく日本を守っていくのは日本人ですもんね。(米テキサス 谷 景太)