アメリカ便り(第四十一歩)
■ダラスの都市開発からの教訓
アメリカも物価高ですが、ダラスの外食産業は相変わらず元気で、人気レストランなどはいつも沢山のお客さんで賑わっています。実際のところ、メニューの中身はあまり変わっていないにも拘らず値段だけ5割り増しなんてところもあって閉口してますが、それでもお客さんが入っているのはやはり人口が増え続けているダラスの経済力が支えているからなのかもしれません。
先日、ロサンゼルスの入国審査にてヒスパニック系の審査官が担当してくれた際に、テキサスの賃金について現状を知りたがっていました。なぜ知りたいのか聞いてみるとロスの物価があまりにも高騰しているためにテキサスに移ることを考えているとのことでした。
ロスと比較すると物価は安いかもしれませんが、その分賃金は若干低いというのが印象です。実際にこちらのサイトで州別の最低賃金を見てみるとロスは時給16ドルでテキサスは7.25ドルと大きな差があります。
https://www.statista.com/statistics/238997/minimum-wage-by-us-state/
これに対して州別の生活費を以下のサイトで比率で見てみますと、ロスの137.6に対してテキサスは92.5と4割近く低いので賃金が低くても生活しやすいという印象があります。
https://www.datapandas.org/ranking/cost-of-living-by-state
さて、冒頭で触れたダラスの外食産業についてですが、10年前にダラスダウンタウンの西にレストランばかりの集まったトリニティーグローブという複合施設が作られたことがあります。
https://trinitygroves.com/
(写真 トリニティグローブのある西側からダラスダウンタウンを望む。)
このトリニティグローブがオープンした当時、ダラスで最もホットなダイニング拠点になりました。シーフード、メキシカン、バーベキュー、タパス、パスタ、ガストロパブ、グルメチョコレートなど、誰もが楽しめる食事を提供しました。連日、ランチとディナーには大勢の人が集まり特に仕事のグループに人気がありました。独身者たちは手軽に毎日違うオプションを楽しむことができ、どのレストランがお気に入りなのか、過大評価されているのか、どのメニューがオススメか、それぞれが意見を出し合って大いに楽しむことができました。
この施設の仕掛け人は、スチュアート・フィッツ、ブッチ・マクレガー、そして全国的に有名なレストラン経営者で、Fuddruckers、Macaroni Grill、Eatzi’sのフィル・ロマーノでした。彼らは、ウエストダラスインベストメンツ社として、1つの大きなパビリオンに12軒のレストランをオープンすることで、近隣の小売スペース、オフィス、アパートの波を刺激することを考えて実行したのです。同社は、近隣の80エーカーの土地を購入するために4500万ドルを費やしました。
それから10年経った現在ですが、このトリニティーグローブ周辺には高級マンションやアパート、公園が建設され沢山の人々が住むようになりました。公園には、犬の散歩をしている近所の人で賑わうようになりました。しかし残念なことにダイニングテーマパークはすっかりゴーストタウンのようになってしまいました。現在は、店舗スペースの半分が空き店舗になっており、ランチタイムにサービスを提供するお店がなくなってしまいました。
一体何が起こったのでしょうか?答えは簡単、このトリニティーグローブの経営方針の問題でした。トリニティグローブに出しているレストランの収益の50%をレストラン経営者とトリニティグローブ経営陣に分配し、レストラン側には8%の家賃と管理費が上乗せされていたのだそうです。レストラン運営陣にとってトリニティグローブ経営者側からサポートされていると感じたことはなかったと地元新聞社へのインタビューでコメントしています。しかし、仮にこの経営方針がうまくできていたとしたらどうなっていたのでしょうか?
結局のところ、都市再生や都市開発をする場合は内側から始めなければいけないという教訓を得たと、ビルダーズ・オブ・ホープ・コミュニティ・デベロップメント・コーポレーションの社長であり、トリニティ・グローブスが位置する増税融資地区の理事長であり、ウェスト・ダラスの住民であるジェームズ・アームストロング氏は言っています。「特に、小売店やレストランのような消費形態について考える場合、消費サービスを提供する方を先に用意するべきではない。これは、コミュニティを巻き込まずに都市再開発に挑戦したいと考えている開発者にとっての教訓だ。しかもこのトリニティグローブの場合は、当初レストランばかりで小売店が殆どなかったため、利用者たちは食事した後すぐにその場を離れるしかないという状況で人々をその施設に長時間滞在させられるような状況を作り出せていなかったのが敗因だった。人々がこの周辺に住めるような状況になるまでに時間がかかりすぎた。」とのことです。
また、この施設の近くに古くからヒスパニック系の人たちで賑わっていた飲食店エリアがあったにも拘らず、彼らにはこの施設への誘いがなかったために地元の人たちから切り離された存在になってしまっていたということが問題の一つだったと挙げられています。
現在は、こうしたいくつもの教訓をもとに地元の飲食店エリアの人たちも取り込んで、飲食店だけに限らず小売店の充実を促進し、レストラン街をさらに磨きをかけ、立地条件をよく活かして人の流れを誘うように様々な計画を立て直している最中とのことです。(写真 トリニティグローブと周辺の開発状況)
トリニティグローブのレストラン施設だけの現状を見た限りでは、大成功とは言えないが既にこの施設の周辺には公園を含めて沢山の住宅施設が出来上がり住居人も増えていることを考慮すると、当初の目標は達成できていると創始者の一人フィル・ロマーノ氏は語っています。
さて、いかがでしたでしょうか?
都市開発もこうして色々と試行錯誤が行われているようで、色々と勉強になります。
ではまた。
(米テキサス 谷 景太)