アメリカ便り(第8歩)
第8歩 全米で不動の人気 ホームインプルーブメント
先日、テキサス州ダラスのダウンタウンにある古い建物を訪問する機会がありました。同市内のメインストリートにある8階建てで、パリのグランドオペラハウスをモデルにした1904年に建てられたビルです。(1) 商用目的で建設されましたが、現在は内装の原型をできる限り保ちながらリフォームされ、ロフト的なアパートとして使われています。
古い物件という観点でアメリカの不動産マーケットを見てみますと、アメリカでは家の価値が下がらないために中古物件が主流となっているのはよく知られている事と思います。実際には老朽化した家の価値は築年数によって下がりますが、街の開発状況に応じて土地が価格上昇するため、需要の高い地域の中古物件は良い投資になると言われています。
購入した家に入る前や、家に住みながらも、大掛かりなリフォームをして、メンテナンスをしっかり続ける事で家の価値を維持あるいは上昇させることもできるので、ホームインプルーブメントはアメリカ人の生活に於いてかなり重要なポイントになってきます。
90年代には、ホームインプルーブメントというタイトルのコメディショーが大人気になり、俳優ティムアレンの出世作になっています。(2) また、アメリカの有料テレビ番組の一つにHGTV(3)という、家の売買やリモデル・リフォームなどを専門に扱うチャンネルがあります。約1億人が契約して見ているそうで、アメリカ人の不動産に対する意識の高さが伺えます。フリッパーと呼ばれるリモデルをして高く売るという専門投資家が様々な物件を取り扱うものが多く、私も好きで見ています。かなりの修理が必要な状態の物件を安く購入し、大掛かりなリフォーム(屋根、プラミング、配線、キッチン、バスルーム)をして素敵な家に生まれ変わるまでの様子を紹介しています。他に、ミリオンダラーリスティング(4)という高級な物件の売買交渉をブローカー達が繰り広げる駆け引きが興味深い内容です。
でもなぜアメリカで中古物件の番組が人気なのでしょうか?2007年の総務省統計データ(5)によると、15才以上の日本人の住居移動率が8に対して、アメリカは約17と、倍の指標が報告されています。また別の情報によれば、平均的な引越し回数は日本成人が3~5回程度に対して、アメリカでは11~20回もあるそうです。アメリカ不動産市場で中古物件が主流となる理由は沢山あると思いますが、その一つがここにあるのかもしれません。
アメリカに長年住み慣れると生活スタイルが畳文化から離れてしまいますが、それが故に歴史ある日本の家屋に住むことにすごく憧れます。最近、日本では古民家が密かなブームだそうです。古い建物を購入してDIYで改築して快適に住んでいる若者が増えているとのこと。昨年からのコロナ禍でリモートで仕事をする機会も増え、それを十分サポートできるインフラも整ってきている中、地方に居住地を求める人たちが出てきているのも頷けます。ホームインプルーブメント人口が増えて日本の中古物件市場の盛り上がりにつながれば良いなと願っています。(谷 景太)