マンションと法(第十七歩)
■2つの老い
前回、前々回と管理組合の運営に関する法的問題を取り上げましたので、今回も、引き続き、管理組合の運営に関する法的問題を扱う予定でした。
しかし、現在、マンション問題に関する講演の準備をしており、その中のテーマの1つとして、いわゆる「2つの老い」を取り扱う予定です。この「2つの老い」という問題は、現在のマンション管理を行う上で避けては通れないテーマとなっています。そして、日々発生するマンション問題に対応する際にも、この「2つの老い」という視点は常に意識しておかなければならないものだと思いますので、今回はこのテーマを取り上げることにしました。
「2つの老い」という用語を耳にする機会が多くなりましたが、その具体的内容は、①マンションの高経年化(建物の老い)と、②居住者等の高年齢化(人の老い)のことを指しています。
日本では、築40年を超え、老朽化の進んだ、いわゆる高経年マンションが、現在約115万戸存在しており、10年後には約249万戸、20年後には約425万戸に上るとされています。また、マンションの居住者の永住意識は上昇傾向にあるといわれています。
このようなマンションの実態を踏まえて、現在のマンションは「2つの老い」に直面しているといわれています。
そして、「2つの老い」を意識することなく、これまでと同様のマンション管理を行っていたのでは、今後様々な問題が生じてくることになります。
例えば、①マンションの高経年化という点では、建物や設備の老朽化が進めば進むほど、その修理等に多額の費用が掛かってきます。また、時の経過によって、建物や設備の性能自体も向上していますので、高経年マンションであればあるほど、エレベーターの設置やバリアフリー化への対応が求められるなど、現在の社会的要求水準を満たすための改修が求められることとなり、その対応にも多額の費用が必要となります。
しかし、「2つの老い」である以上、①高経年化が進んだマンションでは、②居住者等の高年齢化が同時に進んでいます。居住者等の高齢化が進めば、リタイア等で居住者等の収入も低下します。そのため、居住者等の負担能力と乖離した管理費等の値上げは、かえってその滞納を招く結果を招来するなど、建物や設備の老朽化に対応するだけの財源をいかにして確保するのかが課題となってきます。また、居住者等の高齢化が進めば、車を手放す人も増えてくることが想定されますので、管理組合にとっては、従前と同様の駐車場収入が見込めなくなったり、一般的に維持費が高額となる機械式駐車場の場合には、その廃止を含めた判断を迫られることもあろうかと思います。
また、管理組合の財政的な問題に止まらず、居住者等の高年齢化は、役員のなり手不足や、総会への参加率の低下が懸念されますし、相続放棄住戸の増加によるマンション自体の管理不全といった問題にも発展しかねません。
このような問題意識を踏まえると、令和2年のマンション管理適正化法の改正内容や、昨今の標準管理規約の改正内容がより具体的に理解できるのではないかと思います。
マンションでは多数の居住者が共同生活を送っていますので、日々刻々と新たな問題が生じます。だからといって、目の前の問題に対応するだけでは、現在のマンションが直面している「2つの老い」への対応がおろそかとなってしまいます。
現在のマンション管理では、目の前の問題に適時適切に対応することはもとより、中長期的な視点に立ったマンション管理が求められているのだと思います。