マンションと法(第十八歩)
■2つの老い その2
前回は、マンションにおける「2つの老い」を扱いました。前回の記事の作成時点ではスポット的に扱う予定ではありましたが、民法や不動産登記法の改正内容と関係するテーマでもあるので、前回に引き続き、このテーマを扱いたいと思います。
「2つの老い」のうち、居住者等の高年齢化は、マンションにおける空き住戸の発生や増加につながります。マンションにおいて空き住戸が発生する原因は様々なものが考えられますが、居住者等の高年齢化という観点からは、高齢の単身者が施設に入居した後に当該物件に居住する者がいなくなった場合や、居住者が亡くなった後に法定相続人間で遺産分割協議がなされずそのままの状態になっている場合や、居住者が死亡したものの、その者に法定相続人がいなかったり、又は法定相続人全員が相続放棄をした場合などが考えられます。
そして、このような原因でマンションにおいて空き住戸が発生した場合には、①専有部分等の建物の管理不全、②管理組合の運営上の支障、③管理費の滞納などの問題が発生するおそれが高まります。
具体的には、①については、専有部分が長期間利用されないことによる悪臭、カビ、害虫の発生による生活環境の悪化、専用使用部分である郵便受の投函物の散乱などによる美観悪化、マンション内で漏水や火災が発生した場合などの緊急時における対応の遅れなどが考えられます。
また、②については、マンション管理に必要となる情報が管理組合から区分所有者に適時適切に伝わらなくなる結果、空き住戸の所有者の管理組合運営への関心が低下し、さらには総会を欠席したりするようになり、総会運営にも支障を来すことが考えられます。
さらに、③については、上記②とも関係しますが、区分所有者がマンションに居住しておらず、その管理に対する関心が低下するため、毎月の管理費等の支払が滞りやすくなります。加えて、相続人が不存在(法定相続人全員が相続放棄をした場合も含みます。)の場合には、管理組合が家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立てをしなければならなくなるなど、その負担は大きくなります。
このように、マンションにおいて空き住戸が発生した場合には、管理組合の運営上の支障が生じたり、また、マンションの資産価値低下を招くため、管理組合としては、これらを回避する対応を検討すべきです。
例えば、空き住戸や連絡先の届出の徹底、役員免除金の徴収、第三者管理等の外部専門家の活用などが考えられますので、個々のマンションの実態に即した対応を検討することになります。
また、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化を図るため、令和3年4月21日に民法等の一部を改正する法律が成立しました。改正点は多岐に及びますが、マンションの空き住戸解消にもつながる内容となっています。例えば、不動産登記に関係するものとして、相続登記の申請義務化(不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける)、登記名義人等の死亡等の事実の公示(登記官が他の公的機関から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示する)、住所等の変更登記の申請義務化(所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける)が挙げられます。
また、遺産分割に関係するものとして、遺産分割長期未了状態の解消を促進するため、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分によることが原則とされました。
このような法改正によって、管理組合としてもマンションの空き住戸解消による「2つの老い」への対策をより講じやすくなりやすくなるのではないかと考えています。(弁護士 豊田 秀一)