マンションと法(第二十歩)
■管理組合の運営において、なぜ監事が必要なのか2
平成28年の標準管理規約の改正において、監事の権限や機能強化を図るための条文・コメントが盛り込まれたことに言及しました。
具体的な条文等をまとめると、次のとおりとなります。
1点目は、「理事は、管理組合に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監事に報告しなければならない」(40条2項)という規定が追加されました。これは、監事による監査の実施を容易にするために規定されたものです(40条関係コメント)。
2点目は、監事の基本的な職務を定めた41条1項に関して、監事の職務の中には、理事が総会に提出しようとする議案を調査し、その調査の結果、法令又は規約に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときの総会への報告が含まれると明記されました(41条関係コメント)。
3点目は、「監事は、いつでも、理事及び第38条第1項第二号に規定する職員に対して業務の報告を求め、又は業務及び財産の状況の調査をすることができる」(41条2項)という規定が追加され、監事の報告請求権と調査権が定められました(41条関係コメント)。
4点目は、「監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認める時は、臨時総会を招集することができる」(41条3項)という規定が追加され、監事に臨時総会の招集権限が定められました。
5点目は、「監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない」(41条3項)と規定されました。この条文については、改正前の条文と対比すると、理解がしやすいかと思います。すなわち、従前は、「監事は、理事会に出席して、意見を述べることが『できる』」と規定されていたのに対し、改正後は、監事による監査機能の強化のため、監事に理事会への出席義務を課すとともに、必要があるときは、意見を述べなければならないという規定になりました。なお、理事会の構成員はあくまでも理事であり、監事が出席しなくとも、理事会の決議等の有効性には影響しないことは前回の記事でお伝えしたとおりです(41条関係コメント)。
6点目は、「監事は、理事が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法定、規約、使用細則等、総会の決議若しくは理事会の決議に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を理事会に報告しなければならない」(41条5項)として、監事の理事会への報告義務を課しました。そして、当該義務を履行するために必要な場合には、「監事は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、理事長に対し、理事会の招集を請求することができる」(41条6項)として、更に理事会の確実な開催を確保するため、「前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監事は、理事会を招集することができる」(41条7項)と規定されました(41条関係コメント)。
以上のとおり、平成28年の標準管理規約の改正においては、監事の権限や機能強化が図られています。理事は、理事会の構成員として、管理組合の業務執行を担っていますが、監事はその業務執行が適正に行われているか否かを区分所有者全員のために監査しなければならない職責が課せられています。上記改正は、この点を明確にするとともに、また監事の権限を実効性あるものとするための改正だといえます。
このような標準管理規約の改正内容を踏まえると、今回の認定基準の中において「監事が選任されていること」がなぜ挙げられているのかがご理解いただけるかと思います。
なお、第16歩の連載記事において、管理組合の役員の善管注意義務の話をしました。この善管注意義務とは、その者が従事する職業、その社会的・経済的地位などに応じて一般的に要求される注意義務のことをいうと解されていますので、各マンションの管理規約において監事に期待される役割が明文化されている場合には、その内容が監事の管理組合に対する善管注意義務の内容を規定することになる点にも留意が必要と考えます。(弁護士 豊田 秀一)