マンションと法(第二十一歩)
■役員の資格
今回は役員の資格について見ていきたいと思います。
標準管理規約35条2項では、役員の資格について「理事及び監事は、総会の決議によって、『組合員のうち』から選任し、又は解任する」と定めており、役員の資格は組合員(当該マンションの区分所有者)であることだけです。
平成23年改正前の標準管理規約では、役員を「○○マンションに現に居住する組合員」のうちから総会で選任するという定めになっており、役員の資格については組合員であることに加え、いわゆる居住要件が設けられていました。
この居住要件が設けられた趣旨は、現にマンションに居住する者がマンションの現状を一番理解しているという点にありますが、多くのマンションでは、組合員の高齢化や、専有部分の賃貸化が進み、組合員のマンション管理に対する無関心化による役員のなり手不足が問題となっています。役員は、理事会の構成員等として、マンション管理を担うこととなりますが、その役員のなり手を確保することができなければ、理事会の適正な活動に支障を来し、ひいてはマンションにおける良好な住環境が確保できなくなります(第16歩でご紹介した役員による管理費等の着服横領なども、同じ者が長年役員を続けていることによる弊害の表れであるといえます。)。
そこで、平成23年改正の標準管理規約では、役員の資格要件から居住要件を撤廃し、平成28年改正の標準管理規約では、組合員以外の外部専門家を役員として選任できることとする場合の定めが追加されました。
なお、役員のなり手不足に対する対応としては、役員就任を辞退する者に対して協力金の支払義務を課すことで対応しているマンションもあります。
役員のなり手不足の一因としては、役員として重責を担う一方で、責任を負う点にあろうかと思いますので、役員の役割分担を明確にして、各役員の負担軽減を図るとともに、活動に応じた報酬を与えるという方法を検討しても良いと思います。
それでも、役員のなり手不足を解消することができない場合には、組合員の配偶者等に役員の資格を与える方法を検討したり、外部の専門家を活用する方法を検討することになります。
例えば、前者の方法については、役員の資格を「現に居住する組合員と同居する配偶者」等に拡大するものです。その際には、役員の中でも、理事長は管理組合を代表し、その業務を統括することに鑑みて、理事長の資格については組合員に限定し、それ以外の理事については要件を緩和するなどの個々のマンションの実情に応じた規定を設けることが考えられます。
他方、後者の方法については、マンション管理士等の専門家を役員に選任する場合、金銭的な負担が生じたり、良い専門家を見付けられるかという問題が生じます。そのため、まずは専門家を顧問として採用をして、当該専門家の資質を見極めた上で役員の就任を打診するというような方法も考えられます。
このように、マンションにおける役員のなり手不足には、個々のマンションの実情に即した対応が必要になるといえます。
次回は、近年問題となった裁判例を見ながら、役員の資格を定めるマンション独自の規則や運用が法的にどのような問題が生じるのかを考えてみたいと思います。(弁護士 豊田 秀一)