マンションと法(第二十二歩)

■役員の資格2

前回は、標準管理規約が定める役員の資格要件を確認しましたが、役員の資格等について、マンション独自の規約等が設けられたりする場合があります。
このような取組は、組合員のマンション管理に対する無関心化を原因とする役員のなり手不足に対応するための方策を意図したものであったりしますが、区分所有法等の法律との関係で注意すべき事項があります。
この問題を考える上でのリーディングケースとしては、自ら専有部分に居住しない組合員が、組合費に加えて住民活動協力金(月額2500円)を負担すべきものとする旨の規約の変更が、区分所有法律31条1項後段(実際の事例は団地でしたが、準用条文は省略します。)にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に当たるか否かが問題となった事例(最判平成22年1月26日)が挙げられます。
この事例では、①当該マンションの規模が大きく(4棟総戸数868戸)、その保守管理や良好な住環境の維持には管理組合等の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠であること、②当該マンションでは自ら専有部分に居住しない組合員が所有する専有部分が約170戸~180戸となり、これらの者は、管理組合の役員になる義務を免れるなど管理組合等の活動につき貢献をしない一方で、その余の組合員の貢献によって維持される良好な住環境等の利益を享受していること、③本件規約の変更は、上記②の不公平を是正しようとしたものであり、これにより自ら専有部分に居住しない組合員が負う金銭的負担は、その余の組合員が負う金銭的負担の約15%増となるにすぎないこと、④自ら専有部分に居住しない組合員のうち住民活動協力金の支払を拒んでいるのはごく一部の者にすぎないこと、という事実関係を前提として、本件規約の変更が「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に当たらないと判示しました。
また、その後の裁判例(横浜地判平成30年9月28日)では、理事就任辞退者に対して協力金の負担を求める細則の有効性が問題となりました。具体的には、「理事候補者として選出された者が理事就任を辞退しようとする場合は、他の理事有資格者等から理事の就任の内諾を得るものとし、内諾が得られた場合は理事の就任を辞退することができる。内諾が得られなかった場合、理事候補者は、理事就任辞退届を提出し、理事会協力金を納めることによって理事の就任を辞退することができるものとする。理事会協力金は月額5000円とし、原則として2年任期分の12万円を一括して納めることとする。この協力金については、5年以内に理事に就任し、任期満了まで務めた場合は返還する。」と定めた細則の効力について、上記裁判例は、「マンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及び費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものである(最高裁平成22年1月26日第三小法廷判決・裁判集民事233号9頁参照)。本件マンションは全11棟、364戸から成る大規模な団地であり、これに応じて理事の職責が重いと解されるところ、……理事候補者とされながら理事に就任することを辞退し、理事の職務を負担しようとしない組合員に対して一定の金銭的負担を求め、組合員間の不公平を是正しようとすることには、必要性と合理性が認められるというべきである」等として、本件細則が無効であるとはいえないと判示しています。
上記判例等は、不在者協力金と理事就任辞退者の協力金という点で問題となる場面は異なりますが、いずれも管理組合の役員就任をめぐる問題です。そして、上記判例等が指摘するとおり、「マンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及び費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものである」という前提の下、その不平等を是正するためにどのような手段を講じることが可能であるのかという点についての判断を示したものとなります。
なお、上記判例等は、当該マンションの個別具体的な事情の下において判断を下していますので、あらゆるマンションにおいて不在者協力金や理事就任辞退者の協力金を徴収することが有効と判断されるわけではありません。対象となるマンションにおいて、当該定めを設ける必要性と合理性が認められ、その負担金の額が許容され得る限度である必要があることには、注意が必要といえます。(弁護士 豊田 秀一)