マンションと法(第二十八歩)
■総会の決議の瑕疵の具体的な内容
今回は、総会の決議の瑕疵の具体的な内容について検討します。総会の決議の瑕疵の内容は、「手続的」な瑕疵と「内容的」な瑕疵に分類することができます。
このうち、「手続的」な瑕疵とは、総会の招集手続や決議の手続において瑕疵がある場合です。例えば、総会の招集権者以外の者が総会を招集した場合、議題又は議案の要領を通知していない場合、招集期限を満たしていない場合、組合員に対して招集通知を発していない場合などが考えられます。標準管理規約54条1項4号では、総会提出議案は、理事会の決議により決定されると定められていますので、理事会においては、当該マンションの個別具体的な事情を加味した上で、総会議案を確定させる必要があります。そして、総会において何を審議すべきかを決めるだけではなく、当該議案の詳細やそれを審議すべき必要性を組合員に対して分かりやすく説明をするための資料を作成するには、相当な労力を必要とします。したがって、管理組合(理事会)においては、日ごろから、総会提出議案の候補をリストアップしたり、総会開催日から逆算した上でスケジュール管理を行わなければ、総会の招集手続や決議の手続のチェックが不十分になり、手続的な瑕疵を誘発することに繋がりますので、注意が必要です。なお、標準管理規約のコメント第47条関係⑥においては、共用部分等の工事に関して必要とされる総会の決議(普通決議でよいのか、それとも特別決議が必要なのか)については、各工事の具体的な内容に基づく個別の判断によることとなるとして、具体例を示しています。この具体例は運用上大変参考になるものではありますが、全ての工事内容が網羅されているわけではありません。そのため、判断に迷った場合には、後に法的問題が生じるリスクを可及的に排除するという観点から、特別決議事項として総会に上程するという判断をしている管理組合もあります。
次に、「内容的」な瑕疵とは、総会決議の内容に法令違反や規約違反がある場合です。ここにいう法令とは、区分所有法に限らず、民法等の法律も含みます。更にいれば、法律の解釈を補うものとして、判例も含まれます。したがって、総会の議案の内容が法律等に抵触していないかを判断するためには専門的な知識や経験が必要となりますので、議案の内容が法律等に違反していないのかという点について疑問が生じた場合には、専門家の助言を求めることを検討する必要があるかもしれません。
なお、前回の投稿においても記載をしましたが、「内容的」な瑕疵として実務上問題となることが多いものとして、規約の変更等が一部の区分所有者に「特別の影響」を及ぼすとき(区分所有法31条1項)において、当該区分所有者の承諾を得ていない場合があります。判例(最判平成10年10月30日)は、「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益と比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えたと認められる場合をいうものと解される」と判示しています。そうすると、「特別の影響」を及ぼすか否かについては、当該事案の個別具体的な事情を踏まえた判断が求められる事項といえるため、他の事案との比較検討が求められる等、専門家の助言を求める必要性が高い事項だといえます。(弁護士 豊田 秀一)