マンションと法(第二十九歩)
■総会の動議
総会決議に関係する事項のうち、今回は、動議について見ていきます。
動議とは、会議において、予定された事項以外の審議を求める提案のことをいいます。そして、動議をその性質により分類すると、実質的動議(議案の修正等に関する実質的な提案のこと)と手続的な動議(総会の運営や議事進行に関する手続的な提案のこと)に分けることができるとされています。
今回は、動議の中でも、実質的な動議について見ていきたいと思います。
まず、総会において動議が認められるのかという点について、会社法とは異なり、区分所有法には定めがありませんが、当然の事理として認められると解されています。
次に、総会において、出席者は、その内容に制限なく動議を出すことができるのかという点について、区分所有法37条との関係が問題となります。
すなわち、区分所有法37条1項は、「集会においては、第35条の規定によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議することができる」と定めています。ここにいう「第35条によって通知した事項」とは、会議の目的たる事項(35条1項)及び議案の要領(35条5項)のことを指すと解されています。そうすると、区分所有法37条1項では、会議の目的たる事項(議題)について通知することを定め、その例外として、同条5項において、特別決議事項に限り、会議の目的たる事項だけでなく、議案の要領をも通知することを義務付けているということになります。
そうすると、総会の場における実質的な動議については、あらかじめ通知された事項の範囲内のものである限り、総会の場で審議及び採決が必要となります。
動議に関する一般的な説明は以上のとおりとなりますが、より具体的なイメージを持っていただくため、実質的動議の取扱が実際に問題となった裁判例(東京地裁平成29年1月27日)を見てみたいと思います。
当該裁判例のうち、実質的動議に関係する部分は次のとおりです。本件総会における開催通知書面には、「役員改選に関する件」という議題が記載された上で、議案の要領として輪番表に基づき選出された理事及び監事候補者の氏名が掲げられるとともに、役員輪番表が添付されていました。
ところが、総会当日、総会に出席していた組合員が理事への立候補を表明しました。この動議について、議長は、立候補はあらかじめ通知されていないので審議できない旨発言し、動議を決議せずに、原案(上記通知書面に記載された議案)だけが決議され、賛成多数で承認されたという事案です。
そして、当該裁判例は、上記動議を決議しなかったことが総会決議の瑕疵があるかという点について、次のとおり判示しています。すなわち、「本件で問題となる、管理組合役員改選に関する件は、上記区分所有法35条5項に規定する事項ではないので、議案の通知は必要ではなく、本件通知書面で通知した議案と本件動議の同一性の問題は生じない。会議の目的たる事項の同一性についても、管理組合役員改選に関する件ということで、通知内容と本件動議とは異なるものとはいえない。……また、実質的にみても、区分所有法35条1項は、各区分所有者が集会に出席するかどうかは、その議題の重要性又は自分が利害関係を有するかどうかによって判断することから、会議の目的たる事項の通知を義務付け、一定の重要な決議事項については、各区分所有者があらかじめ内容を知り、検討を経た上で集会に出席し、または書面による議決権行使をすることが望ましいことから、同条5項により、一定の決議事項について議案の要領の通知を義務付けたものである。そして、同法37条1項は、同法35条により通知を義務付けた趣旨を害さないために、決議できる事項をあらかじめ通知した事項に制限したものであると解される。一方で決議事項に制限をかけることは、集会における柔軟かつ迅速な決議を妨げるものであるから、あらかじめ通知した事項を広く解すべきでない。したがって、同条5項によって議案の要領の通知が義務付けられていない事項について、議案の要領を通知したとしても、これは、区分所有法37条1項にいう同法35条によって通知した事項に含まれないから、これにより決議事項があらかじめ通知された議案の要領と実質的に同一のものに制限されることにはならないと解すべきである。以上により、同法35条5項により、議案の要領が義務付けられていない決議事項について議案の要領を通知しても、同法37条1項による決議事項の制限は生じず、本件において、訴外Aによる本件動議は、同法35条5項に定める決議事項に含まれないから、役員の改選という集会の目的の範囲内である以上、適法な議案の提案であるというべきである。(注:下線は筆者が付した)。
当該裁判例は、審議事項並びに招集通知に記載がされた議題及び事案の要領との関係において、どのような内容の動議であれば総会における決議が必要となるのかという点について、イメージを掴んでいただくのに有益だと考えております。
今回は、総会の場における動議への対応という極めて実務的な問題を取り扱いました。しかし、動議には、総会の場において、迅速かつ的確に対応することが求められるものです。そして、動議についてはどのような点が法的な問題となり得るのかを事前に把握しているか否かで、その対応にも差が生じることになります。また、動議への対応を誤った場合には、当該決議の有効性にも問題が生じかねません。この機会に一度整理をしていただくことをお勧めします。(弁護士 豊田 秀一)