マンションと法(第三十一歩)
■マンションの災害
今回は、マンションの災害について見ていきたいと思います。秋は台風が接近する季節となりますので、その規模によっては、我々の日常生活に甚大な影響を与えます。また、台風に限らず、最近の日本ではゲリラ豪雨や地震など季節を問わず、災害が発生する可能性があるので、日頃からマンションにおける居住者の防災意識を高めておかなければ、いざというときに混乱を招きます。大規模災害が発生した直後は、居住者の防災意識は高まりますが、有事が過ぎ、落ち着いた生活が続けば続くほど、居住者の防災意識は低下します。平常時から防災意識を高め、万一の事態に備えておくことが、災害発生時の被害拡大防止に必要といえます。
そもそも、防災業務が管理組合の業務なのかという議論がありますが、標準管理規約32条12号では「マンション及び周辺の防災の維持及び向上に関する業務」が管理組合の業務として挙げられています。戸建てとは異なり、マンションは多数の居住者が生活をする場であり、また、水道、電気、ガスなどのライフラインが共用部分を経由している等という構造に照らしても、居住者の住環境を確保するための防災業務が管理組合の業務であることは疑いの余地はないのではないかと考えています。なお、近年の標準管理規約の改正においては、災害等の緊急時において、理事長は、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができるという規定(標準管理規約21条6項)や災害、事故等が発生した場合における理事長等の専有部分等への立入りを認める規定(標準管理規約23条4項)が追加されており、また、管理規約において当該規定が設けられていることが管理計画認定制度の認定基準の一つとなっているなど、災害時の対応はホットなテーマといえます。
そのため、多くの管理組合においては、毎年の事業計画において、防災業務に関する事項を定め、そのために必要な予算を計上し、居住者の防災意識を高めたり、災害時発生のための備品を整備する等の業務に当たっているかと思います。防災意識の向上を図る必要性はマンションに限ったものではありませんが、多数の居住者が共同生活を送る場であるマンションにおいては、災害によって機能不全に陥ることを未然に防止する必要性が特に高いといえるかと思います。
ひとたび大規模災害が発生すると、平常時のように落ち着いた行動をとることは困難となりますので、事前の準備が必須といえます。災害が発生した場合には、管理組合の役員がどのように対応をするのかというマニュアルを事前に定めた上で、定期的に防災訓練を実施し、策定したマニュアルが機能するのかを事前に確認しておくことが重要といえます。また、管理組合の理事のみが事前準備をしたとしても、それが居住者に共有されていなければ、防災計画は絵に描いた餅といえます。定期的な防災訓練の実施により居住者の防災意識を高めたり、防災備品の確認や居住者名簿の管理を行うことが重要といえます。
また、マンションは地域コミュニティの中に存在しますので、マンション単独で防災意識を高めるだけではなく、必要に応じ、周辺マンションや自治会などとの連携を図ることも重要といえます。一概にはいえませんが、管理組合の役員が自治会に参加する等、管理組合と自治会とが日常的かつ継続的な関係性を構築する体制を整備することは、防災時に効果を発揮すると考えられます。
災害は忘れたことにやってくると言われるように、平和な日々が続いている時期にこそ、真剣に考える必要があります。(弁護士 豊田 秀一)