マンションと法(第三十五歩)
■水道料立替金が規約事項であるか否か
前回ご紹介した「外部専門家の活用ガイドライン」については、パブリックコメントが実施され、令和6年1月26日に開催された第2回会議において「外部専門家の活用ガイドライン」の改訂案が示されました。国交省が公表している今後のスケジュールでは、令和6年3月26日開催の第5回会議において上記改訂案がとりとめられる予定ですので、時期を見て、ご紹介したいと考えております。
今回は、興味深い裁判例(静岡地判令和4年9月8日)をご紹介します。この裁判例における争点は複数ありましたが、ここでは「水道料立替金が規約事項であるか否か」を取り上げます。マンションにおいて発生し得ること全ての事項を管理規約で定めることはできず、何を管理規約に定めることができるのかを確認していただくに当たり参考となる裁判例だと考えています。
このマンションでは、水道料金の徴収に関して、いわゆる一括検針一括徴収方式(管理組合が親メーターにより水道料金を一括して水道局に支払い、管理組合が各区分者に対してその資料料に応じた水道料立替金を請求する方式)を採用しており、本件は、管理組合が、区分所有者に対し、賃借人が滞納していた水道料金立替金の支払を求めたという事案となります。
本件事案において、控訴人である区分所有者は、大要、次の主張をしました。
すなわち、区分所有法30条1項の趣旨からすると、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」に限って規約を定めることができるのであり、それ以外の事項を規約で定めても規約としての効力を有しないというべきである。そして、専有部分である各戸の水道料は、専ら専有部分において消費した水道の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえないのが通常であるから、特段の事情のない限り、上記の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記の各戸の水道料について、各区分所有者が支払うべき額や支払方法、特定承継人に対する支払義務の承継を、区分所有者を構成員とする管理組合の規約をもって定めることはできず、そのようなことを定めた規約は、規約としての効力を有しない。また、上記特段の事情とは、個別検針個別徴収方式への変更が法令や水道局の規定上できないことをいうところ(名古屋高判平成25年2月22日、大阪高判平成20年4月16日参照)、本件ではこのような事情は見当たらない。
以上のような控訴人(区分所有者)の主張や被控訴人の反論を踏まえた上で、上記裁判例は、次のように判示しました。
すなわち、「区分所有法30条1項は、『建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる』と規定しているところ、『建物』については、文理上、共用部分に限定するものとは解されないから、共用部分だけでなく、専有部分についても、その管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項については規約で定めることができるものと解するのが相当である。」
そして、「本件マンションにおいては、…‥‥敷地内の給水管、受水槽、加圧式ポンプ、子メーター32戸分が本件マンションの共有物として設置され、これらの受水槽、ポンプ等の給排水施設は管理規約……に基づき共用部分とされ、管理組合である被控訴人がその負担と責任において管理すべきものとされていること、本件マンションは、当初から親メーターで計量して受水槽により給水を受ける貯水槽水道設置方式で建築され、……上下水道部との関係でアハ一括検針一括聴取方式を採用していることが認められる」という事実を認定した上で、「水道水が専有部分である各戸で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、上記のとおり、水道水が共用部分である給水施設を経て各戸に供給され、水道水の供給の方式が……市上下水道部と管理組合である被控訴人の契約内容により決定されている以上、各戸の水道水の使用は必然的にこれらの施設管理及び契約内容による制約を受けるのであるから、管理組合である被控訴人が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で、各区分所有者にその使用料に応じた支払を請求することを規約で定めることは、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして、規約で定めることができ、このような内容の規約は有効であるものと解すべきである」と判示しました。
また、「本件マンションにおいては、……通常総会において、被控訴人が水道料の支払方法を……上下水道部による個別検針個別徴収方式に変更することを提案したものの、反対多数で否決され、個別検針個別徴収方式による制度を利用するための駅用用件を満たすことができなかったものである。したがって、被控訴人としても、一括検針一括徴収方式で水道料金を支払うしか方法がなかったのであるから、…上下水道部で個別検針個別徴収方式による制度の利用が可能だからといって、被控訴人が立て替えて支払った水道料を区分所有者に請求することを妨げる理由にはならず、上記管理規約の効力を否定することにはならない」と判示しています
上記判示からも分かるとおり、本裁判例は、本件マンションの設備構造、一括検針一括徴収方式が採用された経緯、その後の個別検針個別徴収方式への変更が総会決議において否決された等という個別具体的な事情を踏まえた判断がされていますが、マンションにおける管理規約の性格を再検討するには有益な裁判例であると考え、ご紹介した次第です。(弁護士 豊田 秀一)