マンションと法(第三十九歩)
■『マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン(案)』(2)
前回に引き続き、ガイドラインの第3章「マンション管理業者による外部管理者方式(管理業者管理方式)における留意事項」について、見ていきたいと思います。
第3章は、第2章「外部専門家による外部管理者方式等における留意事項」とは異なり、主として、管理業者を「管理者」として活用する管理業者管理者方式の場合(なお、第3章では外部管理者・総会監督型のパターン(理事会が設置さえておらず、かつ、管理業者が管理者に就任するパターン)が前提とされています。)における実務上の留意点や想定される運用例がまとめられています。
管理業者管理者方式を採用する場合、管理業者が、区分所有法上の「管理者」であるとともに、マンション管理適正化法上の「管理業者」でもあるため、管理者と管理業者の2つの地位を併せ持つことになります。
そのため、各マンションにおいては、管理業者管理者方式を採用するか否かを検討するに当たっては、2つの地位を併せ持つという特殊性を踏まえた上で、当該方式のメリット・デメリットを把握しておくことが必要となります。
ガイドラインの中では、管理業者管理者方式に特有な(外部専門家による外部管理者方式とは共通しない)メリット・デメリットとして、次の事項が掲げられています。
<メリット>
・ 管理業者が日々の管理事務とともに管理者業務を担う体制となり、専門的知見に基づく、機動的な業務執行が期待できる場合があること
<デメリット>
・ 管理組合と管理者との自己取引やグループ会社との間における利益相反取引を通じ、管理組合と管理者の間における利益相反が生じたりする可能性が高まること
・ 規約の定め方によっては、理事会方式に戻すことを希望する場合に、これが困難となる可能性もあること
上記メリット・デメリットは、いずれも管理業者管理者方式を採用する場合には管理業者が管理者と管理業者を兼務することに起因するものと考えられます。
そのため、管理業者が、管理事務の延長で管理者としての業務を行うことがないよう、特に、利益相反取引等に係るプロセスの適正化が図られるよう、管理業者による必要かつ十分な情報の開示と、マンション管理の主体である区分所有者による実効的な監督体制を構築することが重要となります。
このような観点から、ガイドラインにおいては、管理者業務委託契約における規定事項、管理規約の規定事項(注意事項とそれを踏まえた管理規約例)についての解説が掲載されています。
なお、ガイドラインによると、利益相反取引とは、類型的に管理組合と管理者との利益が相反するおそれがある取引のことをいい、①外部管理者方式が始まった後において管理委託契約を更新する場合、②管理者がグループ会社等特別な利害関係を有する業者に工事・物品等を発注する場合、③管理者と同一グループの会社に対して大規模修繕工事を発注する場合が利益相反の該当例として挙げられています。
今回は、ガイドラインの記載のうち、管理業者管理方式に特有なものに絞ってご紹介しましたが、その他の箇所においても、第2章と同様の項目に沿って、管理業者管理方式を採用する場合における留意点が記載されています。
今後、お住いのマンションにおいて管理業者管理方式の導入を検討される場合はもとより、管理業者管理方式のマンションを購入された方においても、当該方式によるマンション管理が適正に運用されているのかを確認する際にも、大いに参考になると思います。
(弁護士 豊田 秀一)