マンションと法(第四十歩)

■標準管理規約の見直しの方向性

今回は、標準管理規約の見直しの方向性について見ていきたいと思います。第36歩において、「標準管理規約の見直し及び管理計画認定制度のあり方に関するワーキンググループ」において、標準管理規約の見直しが検討されていることをご紹介しました。

令和6年6月7日、上記ワーキンググループにおける議論の取りまとめ等を踏まえて、標準管理規約が改正されました。
その詳細については今後検討するとして、改正の方向性を皆様に掴んでいただくには上記ワーキンググループにおける見直しの方向性を掴むことが有益だと思いますので、そのご紹介をしたいと思います。

標準管理規約は、社会情勢の変化に伴い、その都度見直しが行われていますが、今回の見直しは、①高経年マンションの非居住化や所在等不明区分所有者の発生等への対応、②マンションの管理情報の見える化の推進、③社会情勢やライフスタイルの変化に応じた対応等を踏まえた検討がなされました。

 

 

 

まず、①高経年マンションの非居住化や所在等不明区分所有者の発生等への対応については、組合員名簿等の作成・更新の仕組作りと、所在等が判明しない区分所有者への対応が検討されました。
「2つの老い」(マンションの高経年化と居住者の高齢化)が進むマンションにおいては、専有部分が空室となったり賃貸に出されたりするなど、区分所有者がマンションの専有部分を生活の本拠としないライフスタイルを選択するケースが増えてきます。このようなマンションでは、役員のなり手不足が問題となったり、管理組合の運営や管理費等の徴収に問題が生じる可能性が高まります。
そのため、今回の見直しでは、管理組合の適正な管理機能を確保するため、管理組合が区分所有者等の所在を把握できるよう、区分所有者等の住所や連絡先に変更が生じた場合には、管理組合に届け出るよう定めた規定を設けるとともに、管理組合においても当該届出に基づき組合員名簿を更新するよう規定することとなっています。
また、上記規定を踏まえて、今回の見直しでは、区分所有者の所在等が判明せず管理に支障を及ぼす場合(管理費等の請求先が不明である場合、総会の成立や決議が困難となる場合、専有部分の管理不全が放置されたことにより共用部分等へ悪影響を与え、住環境の悪化を招いたケースにおいて当該専有部分の区分所有者に対して必要な措置をとることができない場合等)において、管理組合が所在等不明区分所有者の探索を行った場合に、その探索に要した費用を当該区分所有者に請求することができることを記載することとされています。

次に、②マンションの管理情報の見える化の推進については、修繕積立金の変更予定等の見える化、管理に関する図書の保管の推進が検討されました。
マンションの資産価値を維持するためには、適時適切な時期に修繕工事を実施することが必須となるので、今回の見直しでは、コメントにおいて、総会において、長期修繕計画上の積立予定額と現時点の積立額の差や、修繕積立金の変更予定等を明示することや、 マンション売買時の購入予定者に対する管理情報提供項目例に長期修繕計画上の修繕積立金の変更予定額及び変更予定時期を記載することとしています。
また、現行の標準管理規約に規定がある総会議事録以外の総会等で使用した資料についての保管規定はありませんでした。そのため、総会及び理事会で使用した資料を保管することを記載するとともに、コメントにおいて管理規約を変更した際に、変更内容を反映した冊子を作成することが望ましいことを記載することとされています。

最後に、③社会情勢やライフスタイルの変化に応じた対応については、EV用充電設備の設置の推進と宅配ボックスの設置に掛かる決議要件の明確化が検討されました。
具体的には、コメントにおいて、EV用充電設備を設置する際のルール等をあらかじめ定めておくこと、EV用充電設備の設置工事を行う際の決議要件の考え方、マンション売買時の購入予定者に対する管理情報提供項目例にEV用充電設備に関する情報を記載することとされています。
また、コメントにおいて、宅配ボックスの設置工事を行う際の決議要件の考え方を記載することとされています。
なお、宅配ボックスに加え、いわゆる置き配による宅配サービスのニーズが高まる一方、マンションにおいては置き配に関するルールが明確化されていないとの指摘を踏まえ、置き配に関する使用細則を定める際に参考となるポイントをまとめ、周知を行うこととされています。

(弁護士 豊田 秀一)