マンションと法(第四十一歩)

■区分所有法制の見直し
今回は、区分所有法制の見直しについて見ていきたいと思います。これから何回かに分けて検討する区分所有法制の見直しの対象は、「区分所有法制の改正に関する要綱案」となります。この要綱案は、令和4年9月12日に開催された法制審議会第196回会議における法務大臣からの諮問第124号(老朽化した区分所有建物の増加等の近年の社会情勢に鑑み、区分所有建物の管理の円滑化及び建替えの実施を始めとする区分所有建物の再生の円滑化を図るとともに、今後想定される大規模な災害に備え、大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化を図る等の観点から、区分所有法制の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。)に基づき、法制審議会区分所有法制部会が設置され、令和6年1月16日に開催された上記部会の第17回会議において取りまとめられたものとなります。
今後、上記要綱に基づく法案の国会での審議を経て、改正法が成立する予定です。なお、区分所有法の直近の改正は平成24年ですので、今回の改正法が成立すれば、22年ぶりの改正ということになります。
今回ご紹介する内容は、上記部会でとりまとめられた要綱案に記載された内容であることから、今後の国会での審議過程において修正が加えられる可能性があることには留意が必要となりますが、今回の区分所有法制の見直しの方向性を掴むことができるものと考えています。
法務省民事局が作成した資料によると、今回の区分所有法制の見直しが行われた背景は次のとおりです。
すなわち、今後、老朽化したマンション(区分所有建物)が急増していく見込みであり、高経年区分所有建物の増加と区分所有者の高齢化を背景に、相続等を契機として、区分所有建物の所有者不明化や区分所有者の非居住化が進行すると考えられます(これまで何度もご紹介をしている「2つの老い」が背景事情にあることが指摘されており、今後のマンション施策はこの「2つの老い」とどのように付き合っていくのかが重要になってくることが分かります。)。
このような中、現行の区分所有法の下では、不明区分所有者等は決議において反対者と扱われ、決議に必要な賛成を得るのが困難であり、特に、建替え等の区分所有建物の再生の意思決定は、要件が厳格で更に困難であることから、区分所有建物の管理不全化を招くとともに、老朽化した区分所有建物の再生が困難になるという課題がありました。
また、被災して大きなダメージを受けた区分所有建物についても建替え等の要件が厳しい上に、被災区分所有法に基づく災害指定政令の施行後1年以内に決議が必要とされていることから、被災区分所有建物の再生に必要な賛成を得るための時間が足りず、円滑な復興に支障を来すという課題がありました。
そのため、区分所有建物の管理・再生の円滑化、被災建物の再生の円滑化に向けた区分所有法制の見直しは、喫緊の課題であるとして、今回の区分所有法制の見直しが行われました。
要綱案では、①区分所有建物の管理の円滑化を図る方策、②区分所有建物の再生の円滑化を図る方策、③団地の管理・再生の円滑化を図る方策、④被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策の4つの項目が改正項目として示されています。
次回以降では、上記4つの項目に関する各論を見ていきたいと思います。

(弁護士 豊田 秀一)