マンションと法(第四十二歩)

■区分所有法制の見直しⅡ
今回は、区分所有法制の見直し(要綱案)のうち、「区分所有建物の管理の円滑化を図る方策」をみていきたいと思います。

要綱案の中では、区分所有建物の管理の円滑化を図る方策として8項目が挙げられています。具体的には、①集会決議の円滑化、②区分所有建物の管理に特化した財産管理制度、③共用部分の変更決議及び復旧決議の多数決要件の緩和、④管理に関する区分所有者の義務(区分所有者の責務)、⑤専有部分の保存・管理の円滑化、⑥共用部分等に係る請求権の行使の円滑化、⑦管理に関する事務の合理化(規約の閲覧方法のデジタル化)及び⑧区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化の8項目となります。
その内容は多岐にわたり、全てに言及することは困難であるため、今回は、この8項目のうちの①、②及び③についてみていきたいと思います。

まず、①集会決議の円滑化です。
老朽化した区分所有建物の増加に伴い、連絡が付かなかったり、所在が不明であったりする区分所有者が増えてきています。
しかし、現行の区分所有法39条1項では「集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。」と規定されています。そのため、所在が不明等の区分所有者は、集会決議との関係では反対者と同様に取り扱われることになることから、集会決議が成立しにくくなり、マンションに必要な管理等が行えなくなるおそれがあると指摘されていました。
そこで、要綱案では、裁判所の関与の下、所在等不明区分所有者(区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない)を集会の決議の母数から除外する仕組みが新たに設けられています。
また、現行区分所有法における集会決議は、全ての区分所有者及びその議決権を母数とする多数決が採用されています。
そのため、集会に無関心であり、議決権行使書面を提出する等の方法により議決権行使せずに集会に出席しない区分所有者は、集会決議との関係では反対者と同様に取り扱われることから、マンションに必要な管理等が行えなくなるおそれがあると指摘されていました。
そこで、要綱案では、一定の決議事項については、普通決議以外の事項については定足数を定め、出席した区分所有者及びその議決権の多数決を可能とする仕組みが新たに設けられています。

次に、②区分所有建物の管理に特化した財産管理制度です。
要綱案では、民法の所有者不明建物管理制度(民法264条の8)、管理不全建物管理制度(同264の14)を参考にして、マンションにおける新たな財産管理制度として、所有者不明専有部分管理制度、管理不全専有部分管理制度及び管理不全共用部分管理制度が設けられました。
これらの制度により、区分所有者の所在不明等の場合に限らず、問題行為等のために管理不全状態となった専有部分や共用部分の適正な管理が見込めます。

最後に、③共用部分の変更決議及び復旧決議の多数決要件の緩和です。
まず、共用部分の変更決議については、共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、その瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更か、高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるために必要となる共用部分の変更に限って、多数決割合が出席した区分所有者及びその議決権の各3分の2以上に引き下げられました。このように場面が限定されたのは、共用部分の変更に反対の意見を有する区分所有者への配慮にあると考えられます。
次に、復旧決議については、共用部分の変更決議のように場面を限定せずに、多数決割合が出席した区分所有者及び議決権の各3分の2以上に引き下げられました。
次回は、残りの項目(④~⑧)についてみていきたいと思います。

(弁護士 豊田 秀一)