マンションと法(第四十三歩)
■区分所有法制の見直しⅢ
前回取り扱うことができなかった「区分所有建物の管理の円滑化を図る方策」の8項目のうちの④以降の項目についてみていきたいと思います。
④管理に関する区分所有者の義務(区分所有者の責務)
区分所有建物の管理に関する区分所有者の責務に関し、「区分所有者は、区分所有者の団体の構成員として、建物並びにその敷地及び附属施設の管理が適正かつ円滑に行われるよう、相互に協力しなければならない。」という規律を設けることとされています。
マンションでは多数の居住者が共同生活を営んでいることを考えると、上記内容は当然の規律であると考えられますが、近年のマンションが抱える「2つの老い」を背景とした区分所有者の管理に対する関心の希薄化が叫ばれる中で、これを明文化するという点に意味があろうかと考えています。
⑤専有部分の保存・管理の円滑化
管理組合法人による区分所有権等の取得について、「管理組合法人は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために必要な場合には、出席した区分所有者及びその議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で、当該建物の区分所有権又は区分所有者が当該建物及び当該建物が所在する土地と一体として管理又は使用をすべき土地を取得することができる。」という規律を設けることとされています。これにより、例えば、滞納管理費等の回収のために競売を利用する際に、管理組合法人が自ら対象となる区分所有権等を取得することが制度上可能になります。
また、区分所有者が国外にいる場合(区分所有者が国内に住所又は居所を有せず、又は有しないこととなる場合)には、その専有部分及び共用部分の管理に関する事務を行わせるために、国内に住所又は居所を有する者のうちから国内管理人を選任することができる旨の規律を設けることとされています。この国内管理人は、保存行為、専有部分の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為、集会の招集の通知の受領、集会における議決権の行使、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して負う債務又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して負う債務の弁済、を行う権限を有することとされています。
このほか、要綱案では、区分所有法6条2項前段に「保存」の請求を追加すること、及び専有部分の使用等を伴う共用部分の管理に関して、「共用部分の管理に伴い必要となる専有部分の保存行為又はその性質を変えない範囲内においてその利用若しくは改良を目的とする行為は、規約に特別の定めがあるときは、集会の決議で決することができる。」という規律を設けることとされています。後者の規定により、管理組合は配管の一括更新が可能となります。
⑥共用部分等に係る請求権の行使の円滑化
現在の区分所有法26条2項は、一部の区分所有者がその区分所有権を売却するなどして譲渡した場合の規律を設けていなかったため、この場合に管理者が同項及び同条4項に基づき訴訟当事者となることができるかという点について疑義が生じていました(なお、東京地判平成28年7月29日はこれを否定していました。)。
しかし、上記裁判例の考え方によると、一部の区分所有者がその区分所有権を売却した場合には、管理者が訴訟当事者となることができないこととなり不都合が生じることから、要綱案では、次の規律を定め、この不都合を解消することを提案しています。
具体的には、「①管理者は、区分所有法第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金(以下「保険金等」という。)の請求及び受領について、保険金等の請求権を有する者(区分所有者又は区分所有者であった者(以下「旧区分所有者」という。)に限る。以下同じ。)を代理する。」、「②管理者は、規約又は集会の決議により、①に規律する事項に関し、保険金等の請求権を有する者のために、原告又は被告となることができる。」という規定を設けることで、管理者は、旧区分所有者のためにも訴訟当事者となれることを明確にしました。
⑦管理に関する事務の合理化(規約の閲覧方法のデジタル化)
規約の閲覧を定めた区分所有者33条について、「利害関係人から規約の閲覧請求があった場合において、規約が電磁的記録で作成されているときは、第33条第1項の規定により規約を保管する者は、規約の閲覧に代えて、法務省令で定めるところにより、閲覧請求をした利害関係人の承諾を得て、当該電磁的記録に記録された情報を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該規約を保管する者は、規約の閲覧をさせたものとみなす。」という規律を設けることとされています。
この規律により、規約が電磁的記録で作成されている場合の規約の閲覧について、メール送信等の方法で対応することが可能であることが区分所有法上も明らかとなります。
⑧区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化
区分所有建物が全部滅失した場合の敷地等の管理に関して、「区分所有建物が全部滅失した場合(取壊し決議又は区分所有者全員の同意に基づき取り壊された場合を含む。)において、その建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であったとき又はその建物の附属施設が数人で共有されているときは、その権利を有する者は、区分所有建物が全部滅失した時から起算して5年が経過するまでの間は、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」という規律を設けることとされています。
(弁護士 豊田 秀一)