マンションと法(第四十四歩)
■区分所有法制の見直しⅣ
今回は、要綱案のうちの「区分所有建物の再生の円滑を図る方策」についてみていきたいと思います。
この方策を検討する際には、現在のマンションが抱える「2つの老い」に対応するためには、現行法の建替え決議の要件が厳格であり、迅速な建替えができないおそれがあるという指摘がある一方で、建替え決議における反対少数者の利益にも配慮する必要があるという点を意識する必要があります。
要綱案では、次の考え方が示されています。
1 建替え決議の多数決要件の緩和について
⑴ 基本的な多数決割合を現行法どおり区分所有者及び議決権の各5分の4以上とする。
⑵ 区分所有建物につき、以下のいずれかの事由(以下「客観的な緩和事由」という。)が認められる場合には、多数決割合を区分所有者及び議決権の各4分の3以上とする。
① 地震に対する安全性に係る建築基準法(昭和25年法律第201号)又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして政省令等で定める基準に適合していないこと
② 火災に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして政省令等によって定める基準に適合していないこと
③ 外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剝離し、落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして政省令等によって定める基準に該当すること
④ 給水、排水その他の配管設備の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして政省令等によって定める基準に該当すること
⑤ 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)第14条第5項に規定する建築物移動等円滑化基準に準ずるものとして政省令等によって定める基準に適合していないこと
なお、上記①~⑤の客観的な緩和事由のうち、①~③は区分所有者等の生命・身体への支障が生じる事由を定めたもので、④~⑤は居住者の生活に支障を生じさせ、最終的には空き家となったり、機能不全に陥るおそれが高い事由を定めたものとされています。
2 建替え決議がされた場合の賃貸借の終了等について
建替え決議が成立した場合における賃貸借関係の終了については、現行法に定めがありません。
そのため、建替え決議が成立した場合であっても、賃貸人は、賃借人に対して強制的に区分所有建物の明渡しを求めることができないことから、円滑な建物の建替えが阻害されているとの指摘がありました。
そこで、要綱案では、「建替え決議があったときは、建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)若しくはこれらの者の全員の合意により賃貸借の終了を請求することできる者として指定された者又は賃貸されている専有部分の区分所有者は、専有部分の賃借人に対し、賃貸借の終了を請求することができる。」という規律が設けられました。
なお、上記請求がされたときは、賃貸されている専有部分の区分所有者は、専有部分の賃借人(転借人を含む。)に対し、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければならないものとされ、専有部分の賃借人は、賃貸借が終了したときであっても、保証金の提供を受けるまでは、専有部分の明渡しを拒むことができるという規律が設けられ、賃借人の保護が図られています。
3 多数決による区分所有建物の再生、区分所有関係の解消について
⑴ 区分所有関係の解消及び区分所有建物の再生のための新たな制度として、次のような規律を設けることとされています。
具体的な制度の内容は、次のとおりです。
① 建物敷地売却制度
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、集会において、区分所有者、議決権及び当該敷地利用権の持分の価格の一定の多数決により、区分所有建物及びその敷地(これに関する権利を含む。)を売却する旨の決議(以下「建物敷地売却決議」という。)をすることができるという制度です。
② 建物取壊し敷地売却制度
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、集会において、区分所有者、議決権及び当該敷地利用権の持分の価格の一定の多数決により、区分所有建物を取り壊し、かつ、これに係る建物の敷地(これに関する権利を含む。)を売却する旨の決議(以下「建物取壊し敷地売却決議」という。)をすることができるという制度です。
③ 取壊し制度
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、集会において、区分所有者及び議決権の一定の多数決により、当該区分所有建物を取り壊す旨の決議(以下「取壊し決議」という。)をすることができるという制度です。
④ 再建制度
区分所有建物の全部が滅失した場合(建替え決議に基づき取り壊された場合を除き、取壊し決議又は区分所有者全員の同意に基づき取り壊された場合を含む。)において、その区分所有建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であったときは、敷地共有者等集会において、その権利(以下「敷地共有持分等」という。)を有する者(以下「敷地共有者等」という。)の議決権の5分の4以上の多数で、滅失した区分所有建物に係る建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に建物を建築する旨の決議(以下「再建決議」という。)をすることができるという制度です。
⑤ 敷地売却制度
区分所有建物の全部が滅失した場合において、その区分所有建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であったときは、敷地共有者等集会において、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、敷地共有持分等に係る土地(これに関する権利を含む。)を売却する旨の決議(以下「敷地売却決議」という。)をすることができるという制度です。
⑵ 建物の更新
建物の更新(建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復(通常有すべき効用の確保を含む。)のために共用部分の形状の変更をし、かつ、これに伴い全ての専有部分の形状、面積又は位置関係の変更をすることをいう。以下同じ。)に関し、次のような規律を設けることとされました。
具体的には、集会においては、建替え決議と同様の多数決要件の下で、建物の更新をする旨の決議(以下「建物更新決議」という。)をすることができるとされています。
(弁護士 豊田 秀一)