マンションと法(第四十五歩)
■区分所有法制の見直Ⅴ
今回は、要綱案のうちの「団地の管理・再生の円滑化を図る方策」についてみていきたいと思います。
「団地の管理・再生の円滑化を図る方策」の中で検討された事項は、①団地内建物の建替えの円滑化、②団地内建物・敷地の一括売却、③団地内建物の全部又は一部が全部滅失した場合における団地の管理の円滑化、の3つとなります。
1 ①団地内建物の建替えの円滑化
⑴ 団地内建物の一括建替え決議の多数決要件の緩和
要綱案では、団地内建物の一括建替え決議に関する区分所有法70条の規律について、全体要件については、現行法の枠組みを維持しつつ、例外的に決議要件を緩和しています。
これに対し、各棟要件については、反対数をカウントする仕組み(積極的に賛成を数えるのではなく、一定以上の反対がない限り、各棟要件を満たすという仕組み)が提案されています。
これは、団地管理規約が定められ、団地建物所有者全体の意思により一括して管理することが相当な団地においては、一括建替えについても、基本的に団地建物所有者全体の意思に従うこととするのが適当であり、一括建替え決議制度自体が、全体要件を充足していれば、各棟において建替えを行う合理性があることが推認されることを前提としている制度であると考えることができます。
この仕組みの変更により、賛成か反対か分からなかった者の取扱について、従来は賛成にカウントすることができなかった(決議否決の方向に働く)のに対し、要綱案では反対にカウントされない(決議否決の方向には働かない)という扱いになります。
具体的には、次のとおりとなります。
【全体要件】
ア 基本的な多数決割合を現行法どおり団地内建物の区分所有者及び議決権の各5分の4以上とする。
イ 団地内の全ての建物につき、客観的な緩和事由が認められる場合には、多数決割合を団地内建物の区分所有者及び議決権の各4分の3以上とする。
【各棟要件】
区分所有者及び議決権の各3分の2以上の賛成がある場合に限り一括建替え決議をすることができるという現行法の各棟要件の枠組みを改め、各棟につき区分所有者又は議決権の各3分の1を超える反対がない限り、一括建替え決議をすることができるものとする。
⑵ 団地内建物の建替え承認決議の多数決要件の緩和
団地内の区分所有建物の高経年化・老朽化が進むと、団地内の建物の一括建替えのみならず、特定の建物を建て替えるニーズも増加すると考えられます。
そこで、改正案では、区分所有法69条1項の規律を次のように改めることを提案しています。
ア 基本的な多数決割合を現行法どおり議決権の4分の3以上としつつ、特定建物に客観的な緩和事由が認められる場合には、多数決割合を議決権の各3分の2以上とする。
イ 上記アの決議を出席者多数決の規律の対象とする。
2 ②団地内建物・敷地の一括売却
団地内建物・敷地の一括売却に関し、次のような規律を設けることとされました。
具体的には、団地内建物の全部が区分所有建物であり、当該団地内建物について団地管理規約が定められており、かつ、それらの所在する土地が当該団地内建物の団地建物所有者の共有に属する場合には、当該団地内建物の区分所有者で構成される団地建物所有者の団体又は団地管理組合法人の集会(以下「団地管理組合等の集会」という。)において、団地内建物の一括建替え決議と同様の多数決(全体要件及び各棟要件)で、当該団地内建物及びその敷地利用権を一括して売却する旨の決議(以下「団地内建物敷地売却決議」という。)をすることができる。
現行区分所有法では、団地内建物と敷地を一括で売却する決議を定めた制度は存在しませんが、このようなニーズが高まることが予想されることから、上記制度の創設が提案されています。
3 ③団地内建物の全部又は一部が全部滅失した場合における団地の管理の円滑化
現行区分所有法の下においては、団地内建物の全部又は一部が滅失した場合、その建物の所有者は、区分所有法65条の「建物の所有者」には当たらなくなることから、団地的拘束が及ばなくなります。
しかし、要綱案では、建物が滅失した時から起算して5年が経過する日までの間は、滅失した建物の所有者であった者も含めて集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるなど、団体的拘束が及ぶような規律を設けることとされています。
⑴ 団地内建物の一棟以上が区分所有建物である場合において、一団地内にある数棟の建物(団地内建物)の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)が団地内建物の所有者(区分所有建物にあっては、区分所有者)の共有に属する場合において、団地内建物の全部又は一部が全部滅失したとき(区分所有建物にあっては、取壊し決議又は区分所有者全員の同意に基づき取り壊されたときを含む。)は、当該建物が滅失した時から起算して5年が経過する日までの間は、滅失した建物の所有者であった者も含めて集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。
⑵ ⑴の集会においては、敷地や附属施設に変更を加える行為(区分所有法第17条第1項、第21条)や管理に関する行為(区分所有法第18条、第21条)、規約の設定、変更又は廃止(区分所有法第31条第1項)を行うことができるものとする。
⑶ ⑴の集会においては、⑵に掲げる決議に加えて、以下の決議をすることができるものとする。
ア 再建承認決議
イ 建替え承認決議
ウ 建替え再建承認決議
エ 一括建替え等決議
オ 一括敷地売却決議
(弁護士 豊田 秀一)