マンションと法(第四十六歩)

■区分所有法制の見直Ⅵ

 今回は、要綱案の最後の項目である「被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策」をみていきます。
区分所有法制の改正に関する中間試案の補足説明において、上記方策が提案された背景として、次の事情が挙げられています。
すなわち、近年、地震や豪雨、竜巻などの災害が多発しており、今後大規模な災害の発生可能性が高まっているといわれています。
その一方で、平成30年住宅・土地統計調査を基にした国土交通省の推計では、昭和56年以前に建築された旧耐震基準の共同住宅の戸数は、共同住宅ストック全体の約16%を占めており、そのうち、耐震性不十分の共用住宅は約34%になっています。さらに、築後相当年数が経過して劣化し、何らかの対処が必要な老朽化マンションが増加しているとも指摘されており、築40年以上の高経年マンションでは、築40年未満のマンションと比較して、生命・身体・財産に影響する問題を抱えるものが多いとされています。そのため、こうした建物は、大地震が発生した場合には、大きな被害を受ける可能性があります。
加えて、東日本大震災においては大津波が発生し、多くの建物が甚大な被害を受けたことを踏まえると、耐震性については問題がない区分所有建物であっても、その立地によっては、津波などの地震以外の事由により大きな被害を受ける可能性は否定できません。
そして、一たび災害が発生し、区分所有建物が大きな被害を受けた場合には、区分所有建物の内外の住民等に危険を及ぼすおそれもあり、その復旧・復興を迅速に図る必要性が高いにもかかわらず、被災した区分所有者が当該区分所有建物を離れて生活するようになるなどして、迅速な合意形成が難しくなることも予想されます。
また、区分所有者の多様化・高齢化や所在等不明化が進む中で、区分所有建物が被災すると、合意形成が更に困難になり、その復旧・復興を阻む深刻な支障が生じかねません。
このような区分所有建物の置かれた現状を踏まえた上で、被災時における被災区分所有建物の円滑な復旧や復興を図る必要があることから、要綱案では、その実現のために被災区分所有建物の各種決議の要件を緩和することが提案されています。
1 被災区分所有法第2条に基づく政令により指定された災害によって被害を受けた建物の再生に関する規律について
⑴ 被災した区分所有建物の再建等に関する多数決要件の緩和
ア 大規模一部滅失
政令で定める災害により大規模一部滅失をした区分所有建物の建替え等の多数決要件に関し、次のような規律を設けることとされています。
① 建替え決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が大規模一部滅失をした場合においては、区分所有者集会において、区分所有者及び議決権の各3分の2以上の多数で、建替え決議をすることができる。
② 建物更新決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が大規模一部滅失をした場合においては、区分所有者集会において、区分所有者及び議決権の各3分の2以上の多数で、建物更新決議をすることができる。
③ 建物敷地売却決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が大規模一部滅失をした場合において、当該区分所有建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であるときは、区分所有者集会において、区分所有者、議決権及び当該敷地利用権の持分の価格の各3分の2以上の多数で、建物敷地売却決議をすることができる。
④ 建物取壊し敷地売却決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が大規模一部滅失をした場合において、当該区分所有建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であるときは、区分所有者集会において、区分所有者、議決権及び当該敷地利用権の持分の価格の各3分の2以上の多数で、建物取壊し敷地売却決議をすることができる。
⑤ 取壊し決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が大規模一部滅失をした場合においては、区分所有者集会において、区分所有者及び議決権の各3分の2以上の多数で、取壊し決議をすることができる。
イ 全部滅失
政令で定める災害により全部滅失した区分所有建物の再建等の多数決要件に関し、次のような規律を設けることとされています。
① 再建決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が全部滅失した場合においては、敷地共有者等集会において、敷地共有者等の議決権の3分の2以上の多数で、再建決議をすることができる。
② 敷地売却決議に関する要件の緩和
政令で定める災害により区分所有建物が全部滅失した場合においては、敷地共有者等集会において、敷地共有者等の議決権の3分の2以上の多数で、敷地売却決議をすることができる。
2 被災した団地内建物の再建等に関する多数決要件の緩和
詳細は要綱案に譲りますが、被災した団地内建物の再建等について、次の規律が定められています。
⑴ 団地内建物の全部又は一部が大規模一部滅失をした場合
① 一括建替え決議及び団地内建物敷地売却決議に関する要件の緩和
② 建替え承認決議に関する要件の緩和
⑵ 全部又は一部の団地内建物が全部滅失した場合
① 再建承認決議に関する要件の緩和
② 建替え承認決議に関する要件の緩和
③ 建替え再建承認決議に関する要件の緩和
④ 一括建替え等決議に関する要件の緩和
3 大規模一部滅失時等の決議可能期間の延長
政令で指定する災害により区分所有建物等が全部滅失し、又は大規模一部滅失をした場合の決議可能期間の規律を次のように改めることとされています。
これは、現行被災区分所有法においては、政令で指定する災害により大規模一部滅失した場合の再建等の決議可能期間が、政令施行の日から1年間とされているところ、被災後の混乱の中で上記期間内にその全てを完了することは困難であるとの指摘があることを踏まえたものと考えられます。
⑴ 政令で定める災害により区分所有建物や団地内建物が全部滅失又は大規模一部滅失をした場合における上記1記載の各決議は、その政令の施行の日から起算して3年を経過する日までの間、行うことができるものとする。
⑵ 災害を指定する政令の施行後、1度に限り、決議可能期間を延長する旨の政令を定めるなどの方法により、決議可能期間を3年延長することができるものとする。

(弁護士 豊田 秀一)