マンションと法(第四十七歩)

■相続発生と滞納管理費

弁護士としてマンション管理に関する問題に携わるに当たって多く寄せられるご相談は、滞納管理費の回収問題です。とりわけ、近年、区分所有者がお亡くなりになり、相続が発生している事案において、管理組合がどのようにして滞納管理費を回収すればよいのかというご相談が増えてきたように感じます。そこで、今回は、滞納管理費の相続人に対する請求方法等について、まとめてみたいと思います。なお、滞納管理費の回収をテーマとした原稿については、第8歩から13歩に投稿しておりますので、併せてご参照ください。
https://www.mansion-consulting.co.jp/back_number/

まず、管理組合が滞納管理費を請求する上で、区分所有者(被相続人)の死亡が判明した場合には、相続人調査を行う必要があります。この相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得することにより行います。
そして、被相続人の法定相続人を特定した後、管理組合は、その相続人に対して、滞納管理費の請求を行います。相続人は、被相続人の相続を承認するか又は放棄をするかを選択することができます。相続放棄を行った場合、相続開始の時点から相続人でなかったものとみなされるため、仮に被相続人の相続人が相続放棄の申述を行っていた場合には、その他の相続人に対して請求をすることになります。なお、全ての相続人が相続放棄の申述を行っていた場合には、相続人が不存在となりますので、管理組合は、裁判所に対し、相続財産清算人の選任の申立てをすることになります。
相続人が相続放棄の申述を行っているか否かは相続人調査で特定した相続人に対して連絡をとった段階で判明するケースが多いと思います。しかし、相続人との連絡が付かない等の事情により相続放棄の申述が受理されているのか否かが不明な場合には、管理組合は、被相続人との関係では、滞納管理費の債権者に当たることから、利害関係人として、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されているか否かの照会を行うことが可能です。
それでは、相続人調査の結果、被相続人の相続人が1名(単独相続)であったのか、それとも複数人の共同相続であったのかにより、滞納管理費に関する法律関係に違いが生じるのかを見ていきます。
まず、単独相続の場合には、その唯一の相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになります。そのため、管理組合は、その唯一の相続人に対し、滞納管理費の請求を行うことになります。
これに対し、共同相続の場合には、滞納管理費の支払義務が相続発生前(被相続人が死亡する前)に生じたものであるのか、それとも被相続人の相続発生後に生じたものであるのかで分けて考える必要があります。
具体的には、相続発生前に生じた滞納管理費の支払義務は、被相続人の金銭債務に当たりますので、法律上当然に分割され、各共同相続人がその法定相続分に応じてこれを承継することになります(判例)。
これに対し、相続発生後に生じた滞納管理費の支払義務は、その債務の目的がその性質上不可分であるため不可分債務に当たると解されることから、各共同相続人が滞納管理費の全額の支払義務を負うことになります。
したがって、管理組合は、共同相続の場合には、相続開始日と滞納管理費の発生時期の前後関係を正確に把握した上で、各共同相続人に対し、その法定相続分に相当する金員の支払しかできないのか(相続発生前の滞納管理費)、それとも、各共同相続人に対し、その全額を請求することができる(相続発生後の滞納管理費)のかを分けて検討する必要があります。
次回は、共同相続の場合における滞納管理費の請求事案で興味深い裁判例(東京地判令和4年2月18日)がありますので、この裁判例をご紹介したいと思います。

(弁護士 豊田 秀一)